勝浦修:必至のかけ方 寄せのコツを体得する

類書が少ないだけに読んでおいて損はありません
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評価:B
対象者:10級〜2段
発売日:2003年4月

寄せに関する本は数多くあれど、実戦での必要性が非常に高い割には専門書が少ないのが「必至」ジャンルの本です。

本書は全101問の出題のうち、金銀による挟撃の筋、飛車角による開き王手・両王手を含みとした筋、捨て駒による退路封鎖の筋などの基本演習を52問、プロの実戦からの応用問題を49問掲載した次の一手形式の必至問題集です。

基本編は1・3手必至がほとんどで、最長は7手必至となっています。余分な駒の配置を排除した部分図を採用しており、また持ち駒もほとんどが0〜2枚ですので初めての方でも簡単に基本手筋が習得できるでしょう。

終盤は駒特よりもスピード。

基本編 第17問より
必至問題とくれば必ず登場するのがこれですね。初見の人には3手目が難しいかもしれませんが、正解は▲2二金△同玉▲3二銀です。後手は▲2三銀成と▲3一馬△1二玉▲2一銀不成の両方を受ける手立てがありません。

邪魔駒は消せ!の格言を思い出す

基本編 第43問より
正解は▲3三角成△同桂▲2四桂△同歩▲2三歩までで必至です。一見すると寄せの要となりそうな角が実は邪魔駒だったんですね。

羽生さんが竜王を失冠した一局

実戦編 第81問より:図は△2五角
本書では出典の記載はありませんでしたが、第3期竜王戦第5局(▲谷川△羽生)の局面ですね。△2五角は詰めろになっていないので、先手はここが決め所です。

正解は▲7一銀です。対して@△7一同玉は▲6一飛△8二玉▲9一飛成△同玉▲9二金△同玉▲7二龍以下の詰み。またA△8三玉も▲7二龍からの追い詰めです。最善手はB△9三玉ですが、▲7二龍として必至となります。

必至の場合は詰め将棋とは異なり、攻め方の選択手が王手以外にもあるため、受け方の選択手も一気に増えて、問題作成が大変だそうです。

詰め将棋でいうところのいわゆる「余詰め」が生まれやすく、「将棋世界」でも谷川九段が同様の趣旨の発言をされておられました。しかも、同じページに掲載していた谷川九段作成の必至問題も数題が不成立だったり…

そういう理由もあって、必至だけをテーマにした本書は貴重です。「寄せの手筋168」「寄せが見える本」、「鬼手妙手「必至」精選120」などの類書をお読みになった方は大丈夫と思いますが、上記の問題のうち最初の2問が分からなかった方は基本手筋の習得のためにも本書は読む価値ありです。

解説のページには大きな解答図だけではなく、正解手以外の手を選んだ場合の失敗図や玉方があれこれ抵抗した場合の変化図なども掲載されているので、必至初心者の方には参考になるでしょう。

また、後半の実戦編はプロの対局を基にしていることもあって、手ごわい問題も揃っていますので、そちらは有段者の方でも頭を悩ませる内容だと思います。それでも物足りない人には実戦編だけで構成した森九段の「詰めと必死」もあります。

なお著者の勝浦九段は「詰め将棋道場」シリーズという5〜13手詰めの問題集(200題)も出しておられます。入玉や盤面を大きく使ったを取っ付きにくい問題は登場せず、詰め将棋の頻出手筋を学べる良質な本となっていますので、終盤力の基礎固めをしたい方はそちらも参考にしてみてください。