羽生善治のみるみる強くなる 将棋 終盤の勝ち方 入門

図面が豊富で入門レベルに最適の一冊
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評価:A
対象者:15級〜10級
発売日:2010年6月

「羽生善治のみるみる強くなる将棋序盤の指し方入門」の姉妹書となる本書では、将棋のルールを覚えてまもない方、玉を捕まえるのにいつも四苦八苦している方を対象として、終盤での考え方・コツを解説しています。

将棋は「相手玉を詰ませる」ことで決着がつきますが、初心者の頃は頭でそれがわかっていても、いざ対局となると、どういうプロセスで相手玉を追い詰めればいいのかわからず、決着がなかなかつかない展開になることが少なくありません。

本書のプロローグでは、指導対局などでよく遭遇する失敗例として、@目についた王手は全てかけてしまう「王手ばかりでエンドレス」、A駒得・駒損の考え方に囚われすぎて、終盤でも「駒をため込みエンドレス」、B成駒による戦力アップを優先しすぎる「成駒つくってばかりでエンドレス」の3つを紹介し、それぞれの考え方にどのような問題があるのかを詳しく解説していきます。

そして、序盤では価値の高かった「駒得」や「成駒をつくる」という行為が、終盤では一気に価値が下がり、「なによりも重要になってくるのはスピード」・「相手玉を詰めるためにはどんな犠牲もいとわない」という終盤特有の考え方に意識づけができるようになっています。

終盤に優先すべき方針が理解できたら、続く本編で詰め・必至・寄せ(囲い崩しも含む)の3大要素を練習問題を交えてマスターする、という構成になっています。

全207ページの6章から成っており、2色カラーの盤面図が見開きで最大6枚配置されています。なお、タイトルに羽生二冠の名前が入っていますが、あくまでも監修という立場であり、著者は羽生さんではありません。目次は以下の通りです。

プロローグ 終盤を知ろう
第1章 詰みを知ろう〜詰みの定義・練習問題(6問)
第2章 詰めろを知ろう〜王手は追う手・詰み形を想定する・練習問題(9問)
第3章 必至を知ろう〜詰めろとの違い・必至のパターン・練習問題(4問)
第4章 寄せを知ろう〜寄せの考え方・相手の囲いを崩そう(対矢倉・美濃・穴熊)
第5章 受けを知ろう〜詰めろを消す受け・必至&寄せを防ぐ練習問題(7問)
第6章 終盤力を身につけよう〜終盤における考え方・総合問題(23問)

一手控えて、次の詰みを狙います

第2章 詰めろを知ろう〜王手は追う手より
詰めろ(詰みの一歩手前の段階)をかけるという考え方がよくわからないと、ついつい目先の王手を優先して▲3二金と打ってしまいそうですが、以下△1三玉▲1九香△2四玉と逃げられて「あらら…」ということになってしまいます。

ここでは王手を掛けたい気持ちを抑えて、▲1九香と一手貯めるのが好手となります。この手がいわゆる「詰めろ」で、放っておくと次の▲3二金の一手詰めがあります。また、▲1九香に代えて▲2五桂とするのも、次に▲1三銀△3一玉▲3二金の詰みを見た「詰めろ」となります。

堅陣にも弱点が…

第3章 必至を知ろう 練習問題 第3問より
相手玉がどう頑張っても次の詰みを逃れることのできないものを「必至」といいます。受けが無いという点が上記の「詰めろ」と大きく異なる点です。

ここではペタッと打つ▲3一金で「必至」となります。△同銀は▲2三桂で詰みですし、放置していると▲2一金や▲2一馬があります。かといって、受けのスペースがないため2一の地点は受けようがありません。

目先の損得にこだわらず、もう一手先を読む

第4章 寄せを知ろう 玉は下段に落とせ より
目先の駒得を優先して▲2三歩成と金を取るのは△同玉とされて、金一枚得したくらいでは釣り合いが取れないほど相手玉の上部が広くなってしまいます。

ここでは「玉は下段に落とせ」という有名な将棋の格言にならって、▲2一銀と打つのがうまい手です。△同玉と相手玉の上部脱出を防いでから▲2三歩成と金を取るのが好手順で、これで「必至」となります。

いずれの章も基本概念をやや大きめの盤面図を豊富に使って丁寧に解説しており、非常に分かりやすい。文中で図を参照する際には茶系のカラーで【A図】【B図】と示されており、ほぼ一手ごとに盤面図が解説の真横に用意されているので、本書で「ちょっとついていけない」という方はまずいないでしょう。

また、いきなり正しい考え方にアプローチするのではなく、思わずやってしまいがちな「筋悪」な一手を最初に紹介したり、重要ポイントを太字で強調している点も見逃せません。

解説が丁寧な分、掲載されている問題数が少ないのが残念ですが、あくまでも終盤での正しい考え方、詰み・詰めろ・必至などの基本概念を身につけるための本としてとらえ、別途、反復練習用に攻める守る将棋駒の使い方ドリルや1・3手の簡単な詰将棋本、必至本などでトレーニングすればよいでしょう。

第4章の「寄せを知ろう」の内容、特に囲い崩しのページは手筋の組み合わせや7手〜くらいの読みが求められる部分もあり、やや難易度が高くなっていますが、全般的に見ると15〜10級クラスの方を対象とした本と考えてもらって大丈夫です。

表紙・タイトルから子供向けのような感じも受けますが、中身は本格的です。
「監修:羽生善治」となっている初心者向けの本は、良くも悪くもない普通の本が多いなか、本書は看板倒れしていない数少ない一冊。