変幻自在!! 窪田流3三角戦法

升田幸三賞の候補にもなりました
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評価:B
対象者:5級〜四段
発売日:2008年11月

初手▲7六歩△3四歩▲2六歩に角道を開けたまま△3三角と上がる「4手目△3三角戦法」。初見では「奇襲に限りなく近い亜流戦法のひとつ。直ぐ消えるかな」と思いきや、振り飛車の天敵である居飛車穴熊の駒組みを牽制できるなどの理由からトッププロの公式戦でも採用され、現在は本格的な戦法として認識されています。

居飛車党は『対振り飛車には角交換』、振り飛車党は『角交換は避けよ』をセオリー中のセオリーとして教わった世代としては、ゴキゲン中飛車や同戦法も含め「角道オープン型の振り飛車」の登場には相当なインパクトを受けました。

「振り飛車=角道を止める」ことが絶対のルールでないとすると居飛車 VS 振り飛車の対抗型における序盤の可能性は大きく広がることになります。

本書は「角道オープン型の振り飛車」のなかでも「4手目△3三角戦法」に特化した棋書です。著者は「窪田流四間飛車」などの著書があり、その独特の感覚が「窪田ワールド」とも評されている窪田六段。

窪田六段はこの△3三角戦法で、新手や新定跡の開拓に貢献した棋士に与えられる「升田幸三賞」にもノミネートされましたが、惜しくも久保棋王(石田流の新手▲7五飛)に賞を譲る形となってしまいました。

全222ページの6章構成で、最終章は実戦編として自戦記形式で著者の好局を3局ピックアップしています。盤面図は見開きに4枚配置。目次は以下の通りです。

  • 序章 △3三角戦法の狙い
  • 第1章 角交換型 VS 向かい飛車
  • 第2章 角交換型 VS 四間飛車
  • 第3章 角交換保留型 VS 中飛車
  • 第4章 角交換保留型 VS 石田流
  • 第5章 角交換保留▲2五歩型 VS 向かい飛車
  • 第6章 実戦編(対北浜七段・真田七段・達六段)
飛車先逆襲の筋を狙いにする

第1章 角交換型 VS 向かい飛車より:図は△2二飛まで
後手が角交換をして▲2五歩と飛車先を伸ばしたのを受けて、ダイレクトに△2二飛と回る。居飛車がこの歩を突いてくれないと2筋に回ってもインパクトがないのはノーマル向かい飛車と同じですね。

この形の狙いは、駒組みが進んだところで△2五桂と跳ねて、以下▲同飛なら△2四歩〜2五歩と先手の歩切れをついて2筋を逆襲することです。第1章ではこの狙いを含みにして急戦・持久戦での戦いを解説します。

△2五桂からの2筋逆襲は「△2五桂ポン」として、ゴキゲン中飛車の定跡の一変化(プロの実戦でも登場)でも有名ですので、居飛車党の方は要注意です。
なお、図では▲6五角が見えますが、△4五桂▲4八銀△5五角で香取りの△9九角成が受からず、後手優勢となります。

この4手目△3三角戦法の向かい飛車については島九段の代表著書「島ノート 振り飛車編」の第1章「鬼殺し向かい飛車」で、本書とはまた違った狙い筋を秘めた指し方が紹介されていますので、お持ちの方はそちらも参考にしてみてください。

立石流を狙う

第2章 角交換型 VS 四間飛車より:図は△3五歩まで
次に△4四飛〜3四飛のいわゆる「立石流」に組まれると後手満足ですので、先手は▲7七角と打って後手の浮き飛車を阻止するのがこの形での筋です。
ここからが窪田流の真骨頂で、△6一金(変化によっては△3二金)を3四にまで繰り出して先手の2〜4筋の動きを押さえ込みます

居飛車穴熊に負けない堅固な囲い

第5章 角交換保留▲2五歩型 VS 向かい飛車より:図は▲9九玉まで
△2四歩▲同歩△同飛と振り飛車から強気に迫ります。▲同飛と先手が素直に飛車交換に応じるのは、△2八飛と下ろした後、△9六歩からの端攻めが強烈です。

▲2五歩と飛車交換を避けるのも、△2二飛▲8八銀△6五歩から角交換を挑み、△7七角成を取る駒に応じて△6九角や△3九角で後手十分となります。

飛車の振り場所は一通りカバーされていますが、第4章の中飛車では軽い捌きが求められ、第4章の石田流では相手の駒組みを飽和状態にさせる高度な作戦が、さらには第2章の四間飛車では美濃囲いの要となる△6一金を3四の地点まで移動して居飛車の動きを封じる(上図2枚目の変化)力強さが求められるなど、指す側の幅広い力量が問われますので、取っ付きにくさを感じる方もいらっしゃるでしょう。

角道がオープンだったり、角交換で角を手持ちにされると、陣形の低い振り飛車と違って居飛車側は駒組みに制約を受けやすくなりますが、指しにこなすには振り飛車も相当な練習が必要と感じました。

本書はココセな手順もなく研究量も豊富ですので、力戦系の戦いを苦にしない、あるいは戦型の幅を広げたい振り飛車党の方なら参考になるはずです。上図(2枚目)の▲7七角の登場で十八番の立石流をお蔵入りにしてしまった方にもオススメです。

なお、最終章の自戦記で掲載されている北浜七段戦はテレビ棋戦(NHK杯トーナメント)で放送されたものです。解説の森下九段がダメ出しを連発していた(笑)ので、ご記憶の方も多いと思います。将棋は「ニコニコ動画」に全編アップロードされているはずなので、アカウントをお持ちの方はお時間のあるときに是非ご覧ください。