青野照市:先手三間飛車破り 急戦で仕掛ける攻略法を徹底解説

理論家の青野九段の独壇場
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評価:A
対象者:有段者
発売日:1988年9月

居飛車の三間飛車対策として圧倒的に採用率が高いのが「居飛車穴熊」です。一時期は三間飛車のスペシャリストである中田功七段の好著「コーヤン流三間飛車の極意 持久戦編」の影響もあり、三間飛車側がやや盛り返した感じもありましたが、現在ではコーヤン流への対策も進み(最新戦法の話のP241〜を参照)、「やっぱり居飛車穴熊だよね」という流れに落ち着きました。

そんななか、三間飛車に対して果敢に急戦を挑む方はかなりの少数派だと思いますが、急戦を仕掛けるにしてもその多くが「三間飛車が後手の場合」でしょう。それは四間飛車と違い、三間飛車の場合は先手・後手の一手の違いで急戦が一気に難しくなってしまうためです。

そんな難題に果敢に挑むのが「鷺宮定跡」でも有名な居飛車急戦の理論家・青野九段です。本書では「▲三間飛車にはなぜ急戦が難しいのか?」「どこが後手番のときと違うのか?」「有力な攻め筋はないのか?」をアマ有段者クラスを対象として解説していきます。

表紙写真ではわかりにくいとは思いますが本書はハードカバーの装丁です。全268ページの8章構成で見開きに盤面図が3〜4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第一章 △三間飛車 △4三銀型の仕掛け
第二章 △三間飛車 △4二銀型の仕掛け
第三章 ▲三間飛車 △7三桂型の攻防
第四章 ▲三間飛車対三歩突き捨ての作戦
第五章 ▲三間飛車対△9五歩型の基本定跡
第六章 ▲三間飛車 実戦的な▲8八飛の対策
第七章 ▲三間飛車対△6四銀型の攻防
第八章 ▲三間飛車対△7五歩早仕掛け

本書の特徴・よかったと思う点を以下にまとめてみました。

  1. 青野九段の文章が理路整然としており、どこが急所なのかが理解しやすい。
  2. 対▲三間飛車への急戦に加え、対△三間飛車への急戦も解説している。
  3. 自戦記がないため、1冊全てが定跡研究に充てられている(=内容が深い)。
  4. 手の進行が緩やかで、▲〜△〜でページが埋め尽くされることがない。
  5. 重要な手順・作戦の方針などは太字で明記しており、ひと目でわかる。
  6. 居飛車を無理やり良くする作為的な手順は登場せず、形成判断が公平。

三間飛車が先手の場合、急戦備える▲4七金が指せるのが大きい
四間飛車の攻防では▲3六歩を突かない形の▲4七金は△3五桂のキズが残るため、その瞬間に急戦を仕掛けられるケースがあるが、三間飛車では急戦自体が仕掛けにくくなっています。

ここで従来の△三間飛車と同様に△7三桂▲8八飛△5五歩▲同歩△6五歩▲5七銀〜の急戦には、▲4七金と上がった効果で将来▲5八飛と回る手が生じたり、高美濃の堅陣に組まれているため、彼我の玉形の差が生じて、居飛車に何らかの工夫がないと有利な展開に持ち込めません。

そこで本書では▲三間飛車への居飛車の工夫として以下の手順などが研究されています。

@.▲4七金に対して△7三桂を跳ねずに、△7五歩と直接突っかける。
A.△5三銀左を省略して、△3三角と上がり(角交換の際に△3三同銀と好形で取れる)、9筋を詰めて、△7三桂〜6五歩と仕掛ける。
B.対四間飛車で頻出の△6四銀から△7五歩と仕掛けを敢行する。
C.上記の@の手順の前に△9四歩▲9六歩の交換が入っているなら△7五歩〜9五歩〜8六歩のいわゆる「三歩突き捨て」で仕掛ける。
D.Cの突き捨てを全部▲同歩とくれば居飛車有望だが、△8六歩を▲同角とされると難解。そこで突き捨ての順番を変えてみる。
E.遡って△9四歩に▲9六歩と受けないで▲3六歩を優先して、以下△9五歩と突きこし▲4七金を見て「三歩突き捨て」を決行する。

…などが、本書で解説している代表的な居飛車の対策となっています。

比較的古い部類に入る棋書ですが、年代を全く感じさせない内容です、先述の「重要となる変化手順・作戦の方針・新工夫などは太字にしてひと目でわかるようにしている」などの構成上の工夫や双方に肩入れしない形成判断などが随所に見られるため、むしろ現在の棋書が見習うべき点が多いです。

対△三間飛車の部分に関しては、本書の出版以降に新手順が登場するなど、一部は現在の定跡に対応しきれていませんが、生粋の居飛車急戦党の方には是非とも読んでいただきたい一冊。なお、近年出版されて居飛車急戦 VS 三間飛車をテーマにしている棋書には「三間飛車道場 第3巻 急戦」や「加藤流 最強三間飛車撃破」などがありますので気になる方はそちらも参考にしてみてください。