勝又清和:実戦に役立つ詰め手筋

寄せと受けのレベルの底上げに役立ちます
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評価:A
対象者:5級〜五段
発売日:2008年9月

本書は「週刊将棋」に連載されていた同名講座を大幅加筆して再構成したもので、テーマは「実戦における詰め(受け)の計算」です。著書「最新戦法の話」をはじめ、プロ棋士の将棋を系統立ててわかりやすく解説することに定評のある勝又六段が、本書でもその才能を遺憾なく発揮しています。

まず、盤面図の一部を使った仮想局面で「持ち駒に何があれば、相手玉は詰むのか?」、「どの駒で合駒すれば、自玉は安全なのか?」という問題と解説で基本的な筋を習得もしくは確認した後、実戦で現れた華麗なるプロの技を堪能する、という二段構えの内容になっています。例えるなら、「谷川流寄せの法則 基礎編」と「凌ぎの手筋186」に、専門誌「将棋世界」の人気コーナーだった「千駄ヶ谷市場(もしくは対局日誌)」の臨場感をプラスした、といった感じでしょうか。

全222ページの4章構成で、盤面図が見開きに3〜4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 何を持てば詰むか
第2章 何を持てば詰むか・実戦編
第3章 何を合駒するか
第4章 何を合駒するか・実戦編

第2章より ▲行方七段△中村八段:図は△6七桂成まで
先手にもう一枚金があれば、▲7ニ龍△同玉▲6一銀△8三玉▲8ニ金△同玉▲7一角成以下、後手玉は詰みとなります。しかしながら、先手玉には△7八金以下の詰めろがかかっています。金が欲しいからと言って▲7九金とするのは、△同角成でアウトです。

ここでは▲9八玉の早逃げが、後手が金を渡せないことを見越しての好手となります。△7八金は▲同銀で金を渡してしまいますし、△7七桂成も▲同桂とした局面が▲7一龍〜(中略)〜▲8五桂打の筋が生じて先手の勝ちとなります。

実戦編に入る前の基本編はただ単に問題と答えを掲載するのではなく、実戦で応用できる普遍的な考え方が解説されています。例えば「問題○×は3一の歩の存在が大きく、候補を限定できます。なぜなら玉の周辺で、数の優位に立てる升目がないからです。つまり飛び道具(飛角桂香)以外は候補手にならない」などのように、終盤で無駄な読みの量を減らす上で重要なポイントを習得することができます。

また、合駒問題はその駒を取られて攻め駒にされるので複雑な読みが必要となりますが、合駒を仮定駒「?(どこにも動けない不動駒)」として、まず自玉が詰まされた形を知り、そこから逆算して「前に利く(利かない)駒」「斜めに利く(利かない)駒」「前と斜めの両方に利く駒」のどれならば詰みを逃れられるのか、という正解手へ辿りつくためのプロセスが丁寧に解説されています。合駒をテーマにこれだけのページを割いている本はこれまでなかっただけに、第3章、4章は非常に貴重といえます。

あわせて、自玉に詰めろがかかった状態で、相手玉に飛び道具(飛角香)で王手をかけて、合駒を使わせて詰めろを逃れる「合駒請求」というテクニックも全編に渡って登場し、受けの幅を広げてくれます。

寄せに関する本はこれまで数多く出版されており、局面図の類似や使いまわしはある程度仕方なく、少々マンネリ化の傾向が見られていました。しかし、本書はテーブルに素材(持ち駒)が全部揃っていない状態から、如何に工夫して素材を手に入れて料理(寄せ)を完成させるかという新ジャンルの開拓に成功したといえます。

また、他の棋書ではあまり取りあげられることのなかった「詰めを逃れる合駒の手筋」の解説も、正着に至るまでの考え方が例題を通じて繰り返しレクチャーされていますので、本書を読めば「時間がないから、取り合えず安い駒で合駒して、後は運任せ!」という状態から一歩レベルアップできるでしょう。