増山雅人:将棋駒の世界

宮松影水や金井静山、奥野一香などの名工たち作品を紹介
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評価:A
対象者:将棋ファン全般
発売日:2006年10月

「将棋倶楽部24」をはじめとするネット対局の普及で、有段レベルの方でも実際の駒を触って指した経験がないケースも少なくないそうですが、やはり本物の盤と駒を使って対局する魅力にはかないません。

また、近年はNHK「美の壺」などの美術番組でも、美術品・工芸品としての「将棋の駒」の鑑賞が注目を浴びており、将棋を全く指さないけれども、名工の美技に魅せられて将棋の駒をコレクションする方も増えてきています。

本書では将棋の駒が持つ「美」にスポットを当てて、将棋の駒の材料、作り方、書体の種類(錦旗・水無瀬・巻菱湖など)、名工、そして宮松影水や金井静山、奥野一香などの名工たち作品を紹介しています。

文庫本サイズですが、紹介される駒はプロのカメラマンが撮った写真をカラーページで大きく掲載していますので、美術書としての魅力は失われることはありません。

全190ページで構成は以下のとおりになっています。

第1章 駒の基礎知識―基礎知識を学んで、駒の魅力にふれる
第2章 バラエティーに富んだ書体―駒に彩を添える
第3章 名工たちの軌跡―「五人の名工」を中心に
第4章 使われてこそ名駒―傷ついても、いやます魅力
第5章 将棋用具とのつきあい方―いい駒・いい道具にめぐり合うために

第4章の「使われてこそ名駒」では陣屋・福田家などのタイトル戦で実際に使われいる駒が紹介されています。雑誌「将棋世界」や棋士の姿を追ったドキュメンタリー番組などで見ていると、凄い駒を使っているのは一目でわかるのですが、やはり静山や影水など名工の手による盛り上げ(字を彫った後を漆で埋めて、さらに漆を盛り上げる)でした。下世話な話で申し訳ないですが、200万円くらいはしますよね。

また、羽生王座、森内名人、米長永世棋聖、中原十六世名人の愛用の駒の紹介、「駒そのものが、持ち主にふさわしい活躍をさせてくれる(米長永世棋聖)」などの駒に関する哲学などにも触れられています。

第一人者でありながら、「(タイトル戦なので)銘駒を使って対局するのはもったいない感じがして…」という羽生王座の微笑ましい話も。

また、一人につき2ページではありますが、この本を読まなければ多分一生知ることのなかった駒師たちの人生をエピソードを交えて紹介している点もいいですね。
木村文俊(木村義雄十四世名人の実弟)の「ネクタイを締めているようなやつには売りたくないんだ」というコテコテの職人気質にしびれます。

筆者の紹介する駒がほとんど「盛り上げ」なのが残念ですが、将棋ファンなら是非一度は手にとって、あらためて駒が持つ「美しさ」に酔いしれてもらいたい一冊です。