羽生の頭脳 5巻 最強矢倉・後手急戦と3七銀戦法

対△6二飛戦法と現在主流の相矢倉の2本立て
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評価:B
対象者:10級〜初段
発売日:1993年1月

1巻から4巻までは居飛車対振り飛車の対抗型がテーマとなっていましたが、本巻と次巻「羽生の頭脳 6巻 最強矢倉・森下システム」では、『将棋の純文学』といわれる矢倉での定跡を解説していきます。

『最新定跡をわかりやすく解説する』ことが本シリーズのテーマですので、旧来の定跡は触れないで、必修項目とされる本筋だけに絞って進行していきます。

全222ページの5章構成、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 超急戦(△6二飛戦法)・序盤の常識
第2章 ▲3五歩戦法
第3章 ▲3七銀戦法・△4三金型
第4章 同・△6四角の攻防
第5章 同・▲6八角定跡

第5章 ▲3七銀戦法・▲6八角定跡より:図は▲4六銀まで
ここで△5三銀として、以下▲3七桂△8五歩▲1六歩△1四歩▲5八飛△7三角とする指し方と、△4五歩として、以下▲3七銀△5三銀▲4八飛△4四銀とする指し方があります。後者は4筋を盛り上がられて先手面白くなさそうですが、位を取らせることによって攻撃の目標を作ったともいえます。形成は微妙です。

まず、各章の導入部の見開きに「羽生の結論」としてこれから解説するテーマ図(4枚)以下の結論を先に述べてあります。現在はこのスタイルを採用している棋書は多いですが、当時はそのわかりやすさが画期的でした。

▲3七銀戦法の章に入る前に、塚田八段が得意とされていた△6二飛戦法に対する先手の戦い方を解説しています。玉と角の位置によって形勢が微妙に異なる点をポイントとして、双方がベストの布陣を敷いた局面まで進めます。

本編は、1.▲3七銀の形で▲3五歩と突き、後手が△3五同歩(これは先手よしになる)と△4五歩を選んだ場合、2.先手が▲4六銀▲3七桂の形から▲5八飛として一歩交換→▲3八飛に戻して▲2五桂〜▲3五歩という理想形で仕掛けた場合と、3.その形は後手面白くないとして、▲4六銀に△4五歩とついて▲3七銀とバックさせる形、4.▲4六銀と出る前に▲6五歩と突いて睨みを利かしている6四の角を追い払い、5筋を争点にする形が中心となっています。

「〜破り」という趣旨ではないので、先手だけではなく後手からの視点でも公平に解説されています。

刊行から15年近くたっており、当時は最新とされた形も随分と様変わりしました。しかし、本書で解説されているのは▲3七銀戦法の「幹」となる部分ですので、これから矢倉の定跡を勉強しようと思っている方はいまから読んでも十分参考になります。

中級者前後を対象とした矢倉の定跡本は振り飛車と違って人気がないのか、あまり出版されていません。創玄社の矢倉本は狙い筋(必ず先手よしになる 笑)を紹介するものが多く、先後公平の立場で書かれた定跡本とは少し意味合いが違います。

また、森下八段の名著「現代矢倉の思想」「現代矢倉の闘い」は入門書よりもやや敷居の高いところありますので、結局はこのシリーズに落ち着きつくことになりそうです。

内容もさることながら、「羽生」というネームバリューは強力ですので、ちびっ子たちが本屋で見たら、まず羽生さんの顔(鼻毛出てます!)がバーンとアップになっている本シリーズに手が伸びることでしょう。

日本将棋連盟の本はMYCOMと違ってすぐに絶版にはなりませんので、現在でもほとんどの大型書店で手にいれることが出来ます。