佐藤康光の戦いの絶対感覚

形勢判断の指針とそこからの進め方を解説
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評価:A
対象者:三段以上
発売日:2000年1月

トッププロの実戦譜から、序・中・終盤に置ける課題局面をそれぞれにテーマを設けて出題し、候補手の是非・局面の考え方・最善手へのプロセスを解説する『戦いの絶対感覚』シリーズの第1弾です。

本書は緻密流で知られる佐藤康光棋聖が、自らの実戦から52にわたる局面をピックアップしています。

構成は、問題図の下に簡単な形勢判断・指し方の指針が載せられており、翌ページに見開きで局面図が4枚&解説(3ページ)となっています。全246ページ。

第一章 序盤の絶対感覚
第二章 中盤の絶対感覚
第三章 終盤の絶対感覚

巻末にテーマとなった参考棋譜が32局分掲載。

相掛かり戦より

テーマ11 手損の裏表より ▲佐藤△高橋:図は△9四歩まで
直ぐに攻める▲4五歩は以下、△同歩▲同桂△同桂▲同銀△4四歩▲同銀△同銀▲同角△同金▲同飛△4三銀▲4九飛△3三銀が予測され、後手の歩切れを衝いて先手指せそうですが形成は微妙。

そこで佐藤棋聖が指した手は▲6六角です。△8六歩なら▲同歩△同飛に▲8四歩と退路を遮断して飛車を詰ましに行けます。後手は△8六歩に代えて△7四歩と突いてきましたが、そこで▲7七銀と上部を厚くするのが、▲6六角とワンセットでの狙いです。

以下△6四歩▲4五歩△同歩▲同桂〜と前述の仕掛けと同じ進行をたどりました。この手順で角は切ってしまうので実質▲6六角は一手パスとなり、△7四歩と△6四歩と二手指せた後手が理論上は有利となるはずですが、この2手よりも▲7七銀と戦いに備えて上部を厚くする一手のほうが価値が高いというトップ棋士ならではの大局観です。言われてみると納得も、僕には到底思いつかない手順です。

各問題図におけるテーマは『手詰まりを避ける駒組み』・『手を伸ばす受け』・『手を稼ぐ受け』といったプロ好みの渋いものがいくつあるので、『創作 次の一手問題集』のように解答欄を見た途端に最善手の意味・狙いがわかるようなことはありません。

本書の骨子は「正解手を端的に見つける」ことではなく「この局面・形勢をどのように判断して、いかなる方針の基に読みを進めていくか」というプロセスにあると思います。

それにしてもこの本は難しいですね(同シリーズの羽生王座版がさらに難解)。

「大局観」の習得は手筋本と違って、短時間で出来るものではないと思うので本書の内容を完全に消化するにはかなりの時間と実力を要するでしょう。

ケインの棋力(24で二段中・上位)では、他に読むべき本や勉強する事があると思うので、『戦いの絶対感覚』シリーズに挑戦するのは少し早すぎたような気がします。

逆に高段者の方は、普通の自戦記だけではわからない『トッププロの思考』に直接触れることのできる、絶好の著ではないでしょうか。

(評価がAになっていますが、ケインが本書を完全に読みこなしてないので、あまり参考にならないかもしれません)

『最も面白い将棋を指す』と言われる佐藤棋聖の将棋をもっと勉強したい方は、雑誌「将棋世界」の連載自戦記をまとめた「注釈 康光戦記」も参考になると思います。

なお、シリーズ第2弾は「森内俊之の戦いの絶対感覚」となっています。