広瀬章人・遠藤正樹:とっておきの相穴熊

絶対詰まない形を生かした強襲や受け方などを解説
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評価:A
対象者:3級〜五段
発売日:2007年10月

プロ棋界きっての振り飛車穴熊のスペシャリスト・広瀬五段と「アナグマン」の異名をとる遠藤アマ(七段)による相穴熊の指南書です。

相穴熊の定跡書は「四間飛車道場 第7巻 相穴熊」が有名ですが、本書は相穴熊の戦いで求められる独特の感覚と指し回しについて、テーマとなる局面図をもとにお二人が互いに意見を述べていくという非常に珍しいスタイルになっています。

全222ページの3章構成、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 相穴熊の基本的な戦い
四間飛車基本図 振り飛車△5二金型と△6一金型
三間飛車基本図 守備金の寄せ方

第2章 相穴熊における終盤戦の考え方
穴熊の特性 ゼットと速度計算
相穴熊仮想A図 6八金、6二金型
相穴熊仮想B図 7八金、7二金型ほか

第3章 実戦における考え方
定跡形からの仕掛け、桂香を簡単に取らせない、終盤の入り口からの速度計算、強襲の成否、ビッグ4攻略法ほか

振り飛車穴熊の逆転への正しいアプローチは?

第3章 テーマ8 有利な側の指し方と不利な側の指し方より:図は▲4四角まで
一段龍プラス急所の角打ち(次に▲6四角△同歩▲6三桂△同金▲7一角成で後手陣は崩壊)で居飛車が有利なこの局面、振り飛車を持ってどう指すかがテーマです。

広瀬プロの考えは、攻められるのを承知で△4六飛成で催促をします(△4三歩は将来の底歩の筋を消すので損)。以下、▲7一角成△同銀▲6四角△同歩▲6三桂△4一歩▲7一桂成△同金▲6三銀△6一金打が読み筋。これでも振り飛車が苦しいものの、持ち駒が増えたので、逆転する要素が増えています。「受け一方ではなく、手駒を増やして逆転を狙う」考えです。

対しての遠藤アマのアプローチは広瀬プロとは異なり、持ち駒が増えても自玉が薄くなるのは嫌だとして、まず△4一歩。これを▲同竜ならそこで△6二金打として、桂馬と香車を取る手を見せます。逆転のイメージとしては一段飛車プラス△8四香の形をつくることです。△6二金打に▲2一竜なら△4七歩としてと金作りを狙います。

広瀬プロは△4一歩には▲1一角成を指摘しますが、遠藤アマは以下、△8五金▲6八角△7六金として▲7八金には竜と馬のどちらかの利きを遮断する△2二歩を放ちます。桂馬を渡したくない先手は▲2二同竜ですが、馬の働きが弱くなりましたし、これで後手陣も当分寄らない形です。あとは機を見て△7四歩から6三の銀をはたらかせようという考えです。

内容はやや高度なのですが、どのページにも盤面図が2枚あるのでスラスラと読むことが出来ます。例えば、結果図に至る途中で「〜という手も考えられます」「〜と受けられることも考えなければなりません」とあったとしても、その参考図もちゃんと掲載されている点が非常に親切ですし、文中の該当局面図が違うページにあるなどということもありません(NHK講座の書籍化はこれが多くて困るんです)。

不利になったときの粘り方(上図参照)、有利な局面で紛れを作らない勝ち方、無理攻めながら侮れない端攻めの受け方など、同一局面が現れなくても相穴熊の戦いでは常に求められる感覚が自然に頭に入り、「俺強くなったんじゃないか?」という読後感があります。

居飛車穴熊側と振り飛車穴熊側の両方の視点から考えられるように、バランスよくテーマ図を選んでいるので、穴熊を指す方であればどなたでも参考になると思います。

不満点があるとすれば、誰がどう見ても角切って、飛車下ろす一手の局面をテーマにしたページがあり、二人の意見もたいして述べられていないまま(むしろ語るまでのところではない)終っている箇所があるのと、後手を持って考えるときに、盤面図がひっくり返っていないという点です。

MYCOMのことですので、2年もすれば多分絶版になっているでしょう。今後、類書は出ないと思われるので、気になる方はおさえておいて損は無いでしょう。穴熊大好きな方にももちろんオススメです。

2011年4月追記:広瀬王位の四間飛車穴熊の勝局(対銀冠・居飛車穴熊)を50局収録・解説した広瀬流四間飛車穴熊勝局集が出版されました。振り穴党の方はそちらのレビューも参考にしていただければ、と思います。