櫛田陽一:世紀末四間飛車 持久戦之巻

対居飛車穴熊と左美濃、5筋位取りを解説します
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評価:B
対象者:5級〜四段
発売日:1991年4月

前巻の「世紀末四間飛車 急戦之巻」では、△4三銀・5二金左と早めに上がる櫛田流の構えで斜め棒銀や▲4五歩早仕掛けなどの居飛車急戦策を迎え撃ちました。

続編となる本書は、80年代の四間飛車党にとってはまさに天敵だった左美濃と居飛車穴熊、そして5筋位取りに対する世紀末流の対策を解説していきます。

全303ページで、講座・次の一手・自戦記の三部構成となっています。盤面図は見開きに6枚と、この辺の構成は前巻と全く同じです。

第1部 講座編
玉頭位取り、中央位取り4筋速攻型、中央位取り6筋交換型
左美濃▲7七角型、左美濃▲8七玉型
居飛車穴熊
第2部 次の一手編
次の一手問題=26問
第3部 自戦記編
自戦記(対島八段、井上八段、真部八段ほか計10局を収録)

角交換後、立石流の形を目指します

第1部 講座編 居飛車穴熊より:図は△4五歩まで
穴熊に潜ったタイミングで△4五歩を突くのが世紀末流。▲3三角成は以下△同桂▲2五歩△3二金▲8八銀△5二銀▲7九金△3五歩として、▲2四歩からの2筋交換には△4四飛の浮き飛車から△2四歩と逆襲を狙います。△4五歩に▲6六歩と角交換を拒否する指し方(普通こっちを選びますね)には、高美濃に組んで△4四銀〜5四歩〜5五歩と一歩持ってから△5三銀〜5四銀を目指します。

出版された91年には「藤井システム」はもちろん「スーパー四間飛車」などのシステマティックに急所を狙い撃ちする戦法は存在していませんので、左美濃も居飛車穴熊もまともに組ませています。

左美濃▲8七玉型(いわゆる天守閣美濃)には、4枚美濃を阻止するために△6五歩と突いて、▲6六歩の反発に△同歩▲5七金△5四銀▲6六歩に△6五歩と位をキープして、△5一角から△7三角と居飛車の飛車を狙う作戦が解説されています。

居飛車が安全運転で先に▲6六歩として▲6八銀〜7七銀と歩の内側から4枚美濃に組む場合は阻止できませんので、振り飛車側から6筋交換をした後に、5四の銀を△6三銀とバックしてダイヤモンドみので対抗する形が紹介されていますが、こちらはちょっとページ不足。たった2ページで『後手指しやすい』といわれても説得力に欠けます。

対居飛車穴熊の形は角交換を挑み、△3二金から△4四飛と立石流にする形や、居飛車側が▲2五歩を保留した場合は、早めの△1四歩から▲2五歩に△1三角から石田流を目指す形などが紹介されています。石田流の方は相手の端攻めを逆用した嵌め手っぽい手筋が用意されているので、なかなか参考になります。
(2008年3月追記:この△4三銀の形で角交換を挑み、△3二金から△4四飛と立石流にする戦法は、雑誌「将棋世界 2008年4月号」の「四間飛車党のバイブル」で藤井九段が解説していますので、お持ちの方はご確認ください。)

前書きに『前巻より難解になってしまった』とあるように、1ページに掲載されている手順が格段に増えていますが、盤面図が多いために苦にはなりませんでした。

当時は居飛車穴熊と左美濃の猛威で振り飛車党は激減し、居飛車の研究が真っ盛り。『矢倉の研究で一杯一杯なので、振り飛車に対しては何も考えずにイビアナと左美濃を交互に指しています。』という若手棋士の発言も雑誌「将棋世界」にありました。

この時代に若手だった生粋の振り飛車党、中田(功)六段・小倉久史六段・石川陽生六段、そして櫛田陽一六段は、よくぞ氷河期を生き抜いたという感じですね。