深浦康市(監修):フィードバック方式 定跡次の一手 初段への近道

ヒントの代わりに易しい問題を付属しています
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評価:B
対象者:8級〜3級
発売日:2005年12月

「初段への近道」というサブタイトルが示すように、中級者を対象とした次の一手形式の問題集です。居飛車・振り飛車の定跡形を「序盤感覚編」、「仕掛け編」、「寄せ手筋編」の3つのパートに分けて出題されています。

本書がほかの類書と大きく違う点は、まず初段レベルの問題を簡潔なヒントや状況判断のポイントを添えて出題し、これが解けない場合は、その真下に出題されている中級レベルの類題を解くことにより、「あ、この狙い筋って上の問題でも応用できるんじゃない?」と読者自身に"気づき"を与えてから、再び初段レベルの問題に戻る(フィードバック)という方式を採用しているところです。
文章だけだとわかりにくいと思いますので、下に例題を掲載してみました。

なお、本書の深浦王位(当時八段)はあくまでも「監修者」であって著者ではありません。日本将棋連盟から出版されているので、専門誌「将棋世界」の段位認定コーナーの作成スタッフの方が参加されているのかなと勝手に推測しています。

全214ページの3部構成で、大きな問題図(初段レベル)とその下に類題(中級レベル)の盤面図を配置、ページをめくるとそれぞれの解答と解説が掲載されています。

第1部 序盤感覚編 30組(60題)
第2部 仕掛け編 40組(80題)
第3部 寄せ手筋編 30組(60題)

序盤感覚編 例題19より :図は△7三桂まで
▲三間飛車 VS △居飛車早仕掛け(便宜上先後逆)からの出題(初段レベル)ですが、先手は美濃囲いが完成していないのでこの段階で強気な戦いはできません。かといって▲3八銀と囲いを優先させるのは、△8六歩▲同歩△6五歩の先制パンチが飛んできます。

本書では、「10分考えて解けなければ、下欄の問題へ」と、少し易しくなった中級レベルの類題を解くように書かれています。では、その問題を見てみましょう。

序盤感覚編 例題19の類題より :図は△8四銀まで
こちらは▲四間飛車 VS △棒銀ですね。▲4七金や▲3六歩では△7五歩と仕掛けられて棒銀を捌かせる結果となってしまいますので、ここでは▲7八飛と先に回っておいて、△7五歩の仕掛けに備えておくのが正解です。

それでも△7五歩には、以下▲5九角△7二飛▲4八角と受けてこれからの将棋です。大事なのは「戦いの起こりそうな筋に、事前に飛車を転回させておく」ことです。

ここまでくると、先ほどの問題の正解も見えたも同然ですよね? そう最初の問題の正解は▲8八飛です。冒頭でも書いたのですが、本書はこのような形で読者に考えさせて、気づきを与えて進行していくのです。

なお、最初の問題図では△7三桂と跳ねたあとに、飛車回りをするところが肝要で、桂馬跳ねの前に▲8八飛としてしまうと、今度は飛車のいなくなった7筋を目標として棒銀にスイッチされてしまいます。

解答のページはただ単に正解手順が掲載されているだけでなく、考えられるほかの手の駄目な点や、他の局面でも通用する考え方などを端的にまとめた「ワンポイントアドバイス」も掲載されており、時間がたっても「頭に残りやすい」内容になっています。

ただし、「序盤感覚編」では、そこにいたるまでの手順がまったく掲載されていない点がちょっとマイナスです。ページの関係上、そこまでするのは難しかったのでしょうが、本書が対象としている読者の方には、不便に感じるケースも出てくると思います。逆に、問題を見て「これは頻出の局面だよね」とパッと見てわかるひとは既に初段以上の棋力があるはずなので、本書は必要ないでしょう。

第3部の寄せの手筋は、他の棋書にも必ず出ている必修問題がズラリとそろっていますので、この辺はサクサクと感覚的に解けるようにしておきたいですね。

本書で採用されているフィードバック方式は、同じ「この問題はわからん!ギブアップ!」でも、読者になるべく考えさせる構成になっていますので、既に定跡形の「次の一手」本をお持ちの方でも、新鮮な感じで勉強できる一冊だと思います。