南芳一:地蔵流実戦次の一手

実は饒舌らしいです
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評価:C
対象者:5級〜二段
発売日:1991年12月

絶頂期には王将・棋王の2冠を獲得し、谷川さんとの関西所属棋士コンビでタイトルを独占するかとの勢いがあった南九段。深夜に至る対局まで一切正座を崩さないその姿勢から「地蔵流」、あるいは大山十五世名人を髣髴とさせる粘り強い棋風は「リトル大山」とも呼ばれていました。

我々ファンからすると「南九段=無口」のイメージが定着していると思うのですが、「将棋世界」で掲載されていた奥さんのインタビューによると「メチャクチャ冗談を言う饒舌な人」なのだそうです(笑)

本書はそんな南九段の実戦のなかから「自分らしい一手」が指せた局面を「次の一手」形式の問題で全101問出題しています。

全212ページの3章構成で1ページにつき問題は1問、盤面図の上部に★★★のように三段階で難易度を、そして下部には当時の対局の背景や対局者・日時などが記されています。目次は以下の通りです。

  • 第1章 軽妙手筋 編
  • 第2章 沈着冷静 編
  • 第3章 怒涛進撃 編
本局に勝ちA級昇級へ勢いがつきました

第1章 第24問 B級1組順位戦より(▲南 △板谷):図は△5一銀まで
決め手となったのは、▲3三桂成と成り捨てる軽妙手した。対して△同桂は▲2一金からの5手詰みですし、△同玉は▲2一飛車成があります。

また△同金には▲4二金と絡みつく手が後続手で、△3二金には▲4三金、△同銀には▲同飛成が王手角取りとなり先手勝ちとなります。

穴熊への脳天チョップ

第1章 第37問 昇降級リーグ4組 (▲南 △森):図は△1二飛まで
飛車取りを放置して▲8四歩が穴熊への強烈な脳天チョップ。△同歩は▲8三歩△同銀▲6四角と王手に出て、後手は合駒に困ります。

▲8四歩に△4九とと飛車を取るのは、▲8三歩成△同銀▲6四角△8二歩▲8四歩△同銀▲8三歩と絡んで先手優勢です。次の▲8二歩成△同金▲8三歩が厳しすぎます。

前書きに「私の将棋は、他の棋士に比べて地味でわかりにくいと言われています。(中略)でも私なりに一生懸命解説しました。」という文章に九段の人柄がにじみ出ていますが、問題の選定が良かったのか、ご自身がおっしゃるほどのわかりにくさは感じませんでした。

むしろ、中級〜上級クラスの方が参考にする手筋本や囲い崩しの本をそのまま応用できる問題もいくつかあり、難易度はプロ棋士の実戦を元にした「次の一手」問題集の中ではやや低い部類に入ります。

同世代の谷川九段とタイトルを戦っている時代を知っている者としては、もう一花咲かせて欲しいです。古い本ですので新品での購入は困難ですが、南九段のファンの方なら読んでみてもよいと思います。