増田裕司:一手の違いを見抜く202問

わずかな違いで展開がガラリと変わります
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評価:C
対象者:5級〜二段
発売日:2010年1月

一見するといつもと同じ局面に見えるけど、よく見ると駒の配置がわずかに違う局面においてどう指すべきか、あるいは従来通り指すとどのような落とし穴が待っているのかを「次の一手」形式の問題で学ぼうというのが本書のテーマです。

専門誌「将棋世界」で好評だった所司七段の連載講座「似て非なる局面(1993年〜1994年)」の内容をグッと短くした構成と言えばわかるかも・・・って古すぎて覚えてないかもしれませんね(笑)。現在でも子供を対象とした将棋教室のテキストとして利用されているそうですが。

全206ページで1ページにつき2つの類似局面を1組の問題として出題されています。具体例として鈴木八段や久保二冠の活躍によりネット将棋で一段と流行の兆しを見せている石田流から升田式石田流を採りあげた問題を掲載してみました。

この段階は既にハマリ形です

第49問より:図は△4四歩まで
先手の▲3六飛に対して、後手が△8八角成▲同銀の角交換から△3三玉と「石崎君の顔面ブロック by キャプテン翼」を髣髴とさせる一手で3四の歩を守り、続く▲7七角に△4四歩としたところです。

石田流を解説した定跡本なら必ず登場する有名な局面ですが、ここでは▲4四同角と突っ込む手があります。△同玉に▲4六飛とされると歩切れのため、△4五角と合駒するしかありませんが、かまわず▲同飛と切り落とし、以下△同玉▲3六角〜6三角成と銀を取って先手指しやすい形勢です。

次にこれと比較する形で図の△4四歩に代えて△4四角と受ける手を見ていきます。

やはり強手が成立します

第50問より:図は△4四角まで
今度は局面が落ち着きそうに見えますが、そうは問屋が卸しません。
▲4四同角△同歩に▲3四飛の強手が成立します。△同玉に▲1六角が後続手で、玉が逃げるのは▲6一角成ですし、△2五飛の合駒には▲2六歩があります。

居飛車対振り飛車、相矢倉、横歩取り、相掛かり、角換わりなど、メジャー戦法の定跡形における仕掛け前後の問題が多く、上の問題のように選択肢が2つしかない局面での違いを取り扱ったものもあれば、歩の突き捨ての順番を間違えた場合の咎め方(居飛車急戦 対 三間飛車)、四間飛車▲5六歩型と▲4六歩型での受け方の違い(居飛車急戦 対 四間飛車)、相矢倉▲1七香と▲1八香の違いなど非常に幅広い局面が登場しています。

定跡形に近い問題図でもその局面に至るまでの手順は一切表記されていませんので、読み手がある程度その形に精通していることが大前提となっています。

戦型に関係なく純粋に「どれだけ深く手を読めるか」を念頭に読むなら問題ありませんが、「一手の違い」をテーマにしている以上、やはり自分が実際に指す戦型において、そのわずかな違いが形勢をどう左右するのかを知りたいと思う方のほうが多いと思います。

そう考えると、居飛車と振り飛車の両方を指す方はともかく、どちらか一方しか指さない方にとっては、あまり興味がわかないページが多い、あるいは学んだ内容を活かす機会が半減するのではないでしょうか? 「居飛車編」「振り飛車編」として別々に刊行されているとまた違ったのでしょうけど…その辺が残念です。

また、終盤の寄せ合いをテーマにした問題が登場するなど、本来のテーマから離れた問題も出題されているため、従来の「次の一手」本と変らない部分もあり、中途半端な感じが否めません。発売から3ヵ月経ってからのレビューですが、アマゾンで誰も感想を書いていないのでなんとなく嫌な予感はあったんですが…イマイチでした。