片上大輔:3手1組プロの技

手の連動がわかるようになる名著です
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評価:A
対象者:5級〜四段
発売日:2007年8月

デビュー当初は「片山(笑)」などの誤植や「現役東大生」という学歴の話題が先行していた「片上」五段ですが、順位戦もC1組に昇級を果たし、その実力でも名前が売れてきました。

片上五段のデビュー作となる本書は、プロの対局を題材にした「次の一手」ならぬ「次の三手」形式で読みの力を養成することを主眼としています。
正解するには、初手と3手目のコンビネーション、初手に対する相手の応手をキチンと読むプロセスが大事になります。

下の問題図の紹介にある手順のように、相手側にこちらの狙いを消す渋い手が多く出てくるため、この手の本としては珍しく、高段者の方にも勉強になると思います。

第1章 3手1組歩の手筋(歩をうまく使うコツ 25問)
第2章 攻めの3手1組(攻めのヒント 28問)
第3章 しのぎの3手1組(しのぎのヒント 23問)
おまけ 次の一手の舞台裏

第42問の▲中村(亮)-△日浦の銀河戦の局面より:図は△8一飛まで
僕が一番唸った問題を見てもらいたいのですが、皆さんはここでの正解を発見することはできるでしょうか? 正解は▲5五桂(!)△同歩▲4四歩で先手良しとなります。

パッと見てすぐに思い浮かぶ▲3二金の張り付きは△3一香、また▲3二銀は△3三馬と好所に馬を手厚く引きつけられてよくありません。

この馬の活用を阻止する▲5五桂が強手です。振り飛車対居飛車で居飛車側の△9九馬の自陣への引きつけを阻止するために、飛車(▲5八や▲6八)の横利きを生かして、▲8八歩と指す手は振り飛車の常套手段としてよく知られています。
この手筋は「羽生善治の戦いの絶対感覚」などでも、絶対覚えておきたい手として紹介されていましたので、知らない方はこれを機会に覚えてくださいね。

今回はこの手筋の応用なんですが、大駒の働きをカットするために「歩」より価値の高い駒を捨てるのは、なかなか思いつきませんね。既に桂馬を2枚渡しているので、もう1枚渡してもバランスは崩れないという大局観です。

この▲5五桂は金取りですので、△同歩と取らざるを得ないところがポイントです。▲5五桂に代えて、▲5五歩も馬の活用を阻止すると意味では同じですが、後手への駒への当たりがないので、△3一香とこちらの狙いも消されるので決め手にはなりません。

つまり、正解に至るにはこの△3一香のような渋い手も読んでおかなければならないのです。いやあ、難しいですねぇ。

本書では「手の連動」を意識して考えることが求められるため、読みの力を養成するには最適です。また、プロの実戦からの出題ですので、プロの技・大局観を学びたい高段者にもオススメです。