羽生善治:羽生対局から50問!投了図からの詰将棋

豊富な参考図が難解な問題の理解を助けてくれます
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評価:B
対象者:5級〜四段
発売日:2010年1月

対谷川・森内・佐藤・渡辺・深浦など、7大タイトル戦における羽生三冠の激闘譜から勝局の終盤のみをピックアップして、「実戦形式の詰将棋」としてまとめたものです。

プロの将棋、なかでもトッププロの場合は相手に対する「信頼度」や「様式美」の観点から、詰み上がりよりもかなり早い段階で投了しますので、本書では「投了図から少し進めた局面」からの出題がメインとなっています。

238ページで50問と出題数は類書に比べて少ないものの、短い手数の問題でも解説をはじめとする本の構成が非常に丁寧な点がセールスポイントとなっています。

例えば、解答では、2色刷りで問題図→投了図→詰み上がり図の3枚の盤面図を掲載してから解説がスタートします。解説は第一感として思い浮かぶ候補手とその是非を具体的な手順を示すつつ考えていきます。

また、実際の手順も「途中図」を1回挟んで、今後の道筋を整理していますので、比較的長手数(19手前後)の問題でも頭の中が一杯一杯になることもありません。

さらに、「失敗図」や「参考図」、「詰め上がり図(再掲載)」もページの上下に掲載されるなどビジュアル面で、理解が深まるように工夫されています。

解説文は小さい子供でも読みやすいように簡単な漢字にもふりがながふってあります。また、各問題の最後には「対局の舞台裏」として、羽生三冠がその対局時の簡単なエピソード(旅館・対局者・スケジュール等)を披露しています。

〜目次〜
第1章 投了図以下から詰める(第1〜22問)
第2章 投了図に至るように詰める(第23〜45問)
第3章 投了に追い込んだ一手を当てる(第45〜50問)
巻末 初心者のための将棋用語ミニ辞典

問題図の下にはヒントと難易度をレベルA〜Cの三段階(※)が示されています。
※…レベルA:四〜五段クラス / B:初段〜三段クラス / C:1〜2級クラス

ヒント:詰め手筋「歩頭の桂」

第2章 投了図に至るように詰める 第29問より:図は△8六角まで
第65期棋聖戦(▲羽生棋聖 △島八段)の第1局からの出題です。局面は4二の角が8六に飛び出してきたところ。持ち駒が少ないので、盤面上の駒を上図に活用する必要があります。

正解は▲3二龍△同玉▲2四桂△同歩▲2三金△同玉▲2四歩△3三玉▲2三歩成△4二玉▲4三銀打△3一玉▲3二銀成の13手詰めです。「歩頭の桂」で飛車の利きに活を入れるのがポイントでした。

ヒント:角の限定打で必至をかけます

第3章 投了に追い込んだ1手を当てる 第46問より:図は△5一玉まで
第35期王位戦戦(▲羽生王位 △郷田五段)の第3局からの出題です。局面は▲7二桂成に対して△5一玉としたところですが、角の限定打で必至がかかります。

正解は▲3三角です。この手は次に@▲6二金とA▲3二飛成の詰みをみていますが、△3三同銀は▲4一金△同銀▲6二飛成があるため後手は受けがありません。

同じ角打ちでも、▲1五角だと△2四歩▲同角に△5六金▲同歩△7八銀▲同玉△7四飛が「王手角取り」となっていけません。よって▲3三角が限定打となります。

出題されている問題の最短手数は5手、最長で23手となっています。かなりの棋力をお持ちの方でないと、サクサク解くことは難しいと思いますが、いずれも「焦点の捨て駒」や「退路封鎖」、「一間飛車」など練習用の詰将棋で習ったおなじみの「詰め手筋」を応用すれば解ける良問が揃っています。

ご存知の方も多いと思いますが、トッププロ棋士の名を冠した詰将棋本には、作者が別の詰将棋作家の方でプロ棋士は監修のみ―というものが少なくありません。

そんな中、本書は実戦形式の詰将棋ではありますが、羽生さん本人が詰め上がりに至るまでの考え方・プロセスを各問題につき数ページ解説しているため、従来の本とは一線を画す出来になっています。

ただし、出題は全て7大タイトル戦(=有名な将棋ばかり)ですので、熱心な羽生ファンの方、定期的に昔の「将棋世界」や「近代将棋」を読み返している方にとっては、正解がおぼろげながらも頭に浮かんでくることもあるでしょう。

〜詰将棋本について〜
本サイトでは普通の詰将棋の本はレビューしていませんが、僕が実際に購入した本の中から、実力養成や反復トレーニング用に役立ったものを挙げるならば、「新作詰将棋200」に代表される原田九段の「〜詰将棋200」シリーズ、勝浦九段の「詰将棋道場」シリーズ、高橋九段の「超実戦 詰将棋 初段・二段・三段」などに代表される成美堂の777円の文庫シリーズです。

いずれも@問題図がコンパクトで、駒の配置に無理が無い、A入玉図が少ない←個人的には重要な要素(笑)、B手数が伸びても基本手筋の応用回数が増えるだけで、難易度は一気に飛躍しない―という共通点があります。

3手限定とか手数の短いものは基本手筋の習得用のものもあれば、盤面を大きく使ったやや難易度の高いもの、開き王手・両王手のワンパターンの問題のみを掲載しているものなど、必ずしも読みやすい、あるいは解きやすいとは限らないので初心者の方は注意が必要かもしれません。