屋敷伸之の将棋 茫洋

忍者流の初の実戦集です
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評価:B
対象者:8級以上
発売日:1993年6月

塚田泰明の将棋 遊心」、「小林健二の将棋 鍛錬千日・勝負一瞬」に続くMYCOMの実戦集シリーズ最終巻は、若干18歳で中原十六世名人より棋聖位を奪取した「忍者流」屋敷九段が登場です。棋士になって5年目で実戦集を出すというのは今振り返ってみても異例。

表紙のニキビ顔と、現在の日焼け顔&眉間に刻まれた深いしわを比較すると、歳月の流れを感じずにはいられせんが、この出版時から10年以上もC級1組に在籍することになろうとは本人も思っていなかったことでしょう。

全247ページに22局が収録、盤面図は見開きに6枚という構成になっています。

次の一手で棋聖位が見えてきました

第56期棋聖戦 第5局より ▲屋敷△中原:図は△6五銀まで
前期の棋聖戦で2-3負けとなった時は、「最初のチャンスを掴み損ねると二度目のチャンスはなかなかやってこない」と雑誌で書かれていましたが、次期棋聖戦でも挑戦者となり周囲を驚かせました。出だしで2連敗していきなりカド番になりましたが、そこから連勝して迎えた5局目の終盤です。

中原棋聖(当時)が5四の銀をヒョイと△6五銀と出て、飛車馬両取りを掛けたところです。一見ピンチのようですが、ここで屋敷五段が指した▲4三馬が好手で、中原棋聖をこれをうっかりしていたようです。△同玉の一手に▲6五歩と銀を取り、次の▲4六飛の王手の狙いが強烈です。後手は歩切れのため受けが難しくなっています。

対戦相手は新人(三浦、丸山、真田)から中堅ベテラン(長谷部、安恵、桜井)、そしてトップクラス(羽生、中原、米長)と幅広い。通常の実戦集は勝局だけを収録するのが慣例ですが、『印象に残っている将棋』をテーマに選んでいるので(本人談)、負けとなった将棋も掲載されています。

対局中の緊張や興奮、落胆を素直に綴っているところに好感が持てます。
対三浦戦では「このまま、若さの勢いに押されてしまうのだろうか?」とありますが、この時点で屋敷さんはまだ20歳ですよ!!!

手の解説はそれほど詳しくないですので、スラスラと読めますが、本人が振り返ってみてもよくわからない手、終盤でヨレヨレになっている不出来な将棋など、快勝局が少ないのが少し残念。

ただ、屋敷九段の文章が読める機会は滅多にないですし、実戦集もこれが最初で最後だと思いますので、最近ファンになった方は読んでおいて損はありません。

屋敷九段が講師を務めた「NHK将棋講座」のテキスト内容をまとめて単行本化した、「屋敷伸之の囲いの崩し方」のページも参考にしてみてください。