村山聖名局譜

羽生二冠と先崎八段の会話形式で進みます
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評価:A
対象者:将棋ファン全般
発売日:2000年11月

1998年に進行性膀胱がんのために夭折した故・村山聖贈九段の名局集です。その切れ味鋭い終盤力からプロ間でも『終盤は村山に聞け』と恐れられた彼の将棋を、羽生二冠と先崎八段が解説していきます。

従来の名局集と違って、非常にライトな感覚(文中に笑マークがしょっちゅうでてきます)の会話形式で、ポイントをわかりやすく説明しながら鑑賞するスタイルになっていますので、棋力に関わらず盤が自宅にある方ならどなたでも楽しめる内容となっています。

全215ページで、見開きの下段に指し手が、そして左ページに盤面図が4枚配置されています。以下の目次の10局のほか、番外として奨励会時代の将棋など4局の棋譜と対戦相手別成績表なども掲載。

第1局 ライバルとの初顔合わせ―羽生善治五段戦
第2局 千日手指し直しの大熱戦―佐藤康光五段戦
第3局 大名人に完勝―大山康晴十五世名人戦
第4局 タイトル初挑戦を決める―米長邦雄九段戦
第5局 タイトル戦デビュー―谷川浩司王将戦
第6局 順位戦で谷川を破る―谷川浩司王将戦
第7局 執念の逆転勝ち―森下卓八段戦
第8局 鬼手が炸裂―羽生善治名人戦
第9局 秒読み、深夜の大激闘―丸山忠久七段戦
第10局 一点の曇りなき絶局―木村一基四段戦

第42期王将戦 第1局より ▲谷川△村山:図は△7五桂まで
攻防の▲7六角に対して△6七金▲同角としてから△5七飛が好手で勝勢となりましたが、この後ミスが出て逆転負けとなりました。

終盤の詰むや詰まざるやという局面以外では難しい話はあまり出てこず、手の感じや勢い、心理状態などを主に触れています。

会話の一例を挙げると…
先崎『これも角換わり。△6五歩、△7四歩としてから△6四角と打つのが好きみたいだね。』
羽生『何か理由があるだろうね。』
先崎『すっごくつまらないこだわりがあるんだよ、きっと。大体理由を教えたがらないんだよね。それを無理やり聞き出してみると、ものすごいしょうももない理由なんだ。』
…こんな感じで終始進んでいきます。

二人とも初見ではないはずですが、パッと見て直感的に思ったことをそのまま言葉にしているという印象です。活字体で羽生さんのこんな柔らかな会話は初めて見ました。

先崎八段は雑誌「将棋世界」の中でも、大盤解説などで羽生さんと一番上手く掛け合えるのは自分だという趣旨の発言をしておられましたが、本書を読んで納得です。

前書きに「虎は死して皮を残し、棋士は死して棋譜を残す。」とありますが、村山さんもこの二人に自分の名局を解説してもらって幸せだと思っておられるのではないでしょうか。