西尾明・大平武洋・村中秀史:新鋭居飛車実戦集

微妙なメンバーと言えなくもない(笑)
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評価:C
対象者:5級〜
発売日:2008年5月

MYCOMからシリーズ化されている若手棋士の共著による実戦集の第二弾です。今回テーマとなっているのは本書のタイトルにもなっている「居飛車」で、登場する若手は西尾五段、村中四段、そしてZONE(2005年解散)の大ファンで、とある珍事(後述参照)のために「トリビアの泉」にも登場した大平五段の3人となっています。

シリーズ第一弾の新鋭振り飛車実戦集(戸辺誠、遠山雄亮、長岡裕也、高ア一生)、第三弾の関西新鋭棋士実戦集(豊島将之、糸谷哲郎、村田智弘)に比べると若干、地味な感じがしないでもないです。

全223ページの3章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。また、各章の末尾に3人によるコラムもあります。対戦相手と戦型は以下の通りです。

第1章 西尾明五段
新戦法を相手にする 対中村亮介四段
自分らしい一局 対横山泰明四段
力戦矢倉を戦う 対木村一基七段
名人に初勝利 対森内俊之名人

第2章 大平武洋五段
急戦か持久戦か? 対長岡裕也四段
昇段の一番 対長沼洋七段戦
脇システムの戦い 対勝又清和六段
矢倉でも1手損? 対佐藤秀司六段

第3章 村中秀史四段
相穴熊の戦い 対久保利明八段
四間飛車銀冠との戦い 対千葉幸生
森下システムの戦い 対佐藤紳哉五段
4六銀3七桂と戦う 対先崎学八段

相穴熊もポイントは端です
第3章 相穴熊の戦いより ▲村中四段△久保八段 図は△9六歩まで

ここで▲2四馬△同銀▲同飛と、先手の貴重な馬と後手が捌ききれていない銀を交換するのが、意表を突いた一手。狙いは1一の香車を拾ってからの▲9四香の端攻めです。実戦の進行も、9筋に香車をしつこく打ち続けて後手玉を引きずり出した村中四段の勝ちとなりました。

内容は専門誌「将棋世界」の連載や既に出版されている実戦集と同じく、オーソドックスな作りになっています。セールスポイントとしては『研究』と題して、実戦では現れることのなかった中盤での仕掛けとそれ以降の手順、また終盤での水面下での一手争いの激しい手順などが細かく解説されている点で、この部分はわかりやすて参考になりました。また、掲載されている将棋そのものが熱戦ですので、盤面図と棋譜を見て手順が頭に浮かぶ棋力のある方なら読み物としても面白いでしょう。

ただ、シリーズ全体に言えることですが、文章がフラット過ぎて各棋士の顔(個性)があまり見えてこないのが残念な気がします。また、僕たちアマチュアから見ればプロの先生は神のような存在ですが、同じ実戦集を買うなら、理解できるかどうかは別として羽生、谷川、佐藤、森内、渡辺さんをはじめとするトップ棋士の将棋を…というのが心情でしょう。ですので、オススメかと聞かれれば正直「ウ〜ン」という感じの一冊です。ネームバリューでどうしても負けてしまいますので、矢倉や四間飛車のようにテーマの戦法を一つに絞るなど、違った切り口で勝負しないと大変かもしれません。

〜ここから話が大幅に脱線します〜

冒頭に書いた大平五段の珍事というのは、ご存知の方も多いと思いますが、大ファンだった「ZONE」の解散コンサート(埼玉県)に間に合わせるために、当日、関西将棋開館での対局を消費時間0分で勝ったというものです(笑)


「トリビアの泉」に登場した大平五段のYouTube動画です。画面をクリックすると自動的に再生されます。

相手の児玉六段も尋常じゃない早指しに「何かわけがあるのだろう」と察して、こちらも消費時間はわずかに25分という超早指しです。この対局は竜王戦6組の昇級者決定戦だったのが、大平五段には幸いでしたね。これが順位戦だったら…

「プロ棋士としていかがなものか」的な意見も当然あるとは思いますが、将棋を全く知らない人たちにも相当受けがよかったそうですので、笑って済ましてよいのではと思います。

参考までに、最近の超早指しでは2008年2月の鈴木八段−田村七段(王将戦予選)で、「長考したら気合的に負けなんです(by 鈴木)」とそれぞれ消費時間4分と3分しか使わなかった話もあります。好きだなぁ、こういうの。