郷田真隆:実戦の振り飛車破り

▲4五歩急戦の郷田新手が有名だが本書では登場せず
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評価:B
対象者:5級〜五段
発売日:2000年8月

対四間飛車▲4五歩急戦の郷田新手(△2四同角に対する▲9五歩)など、振り飛車破りには定評がある郷田九段の自戦記です。

無茶苦茶イケメンだった四段時に挑戦者となった王位戦7番勝負では、谷川王位の四間飛車相手に急戦を仕掛けるもド作戦負けに陥り、『郷田君に勝つには飛車を振ればいいんだね』という控え室の辛辣な冗談が、当時の「将棋世界」に掲載されていたのを覚えています。

表紙が全く将棋の本らしくないのが特徴。「一人でできる初めての着付け〜●×着物学院シリーズ」というタイトルがついていても全く違和感のない清涼感のあるデザインです。

全227ページに郷田九段の実戦譜が計21局掲載。盤面図は見開きに4枚配置されています。

第1章 四間飛車編
▲5七銀左 対小倉四段
後手棒銀 対小林(健)八段
△5三銀左 対藤井五段
先手棒銀 対勝浦九段
先手棒銀 対谷川竜王
▲5七銀左 対羽生王位
▲57銀左 対伊藤(能)四段
玉頭位取り 対杉本五段
四間飛車穴熊 VS 銀冠 対真部八段
5筋位取り 対藤色九段

第2章 三間飛車編
△7三桂早仕掛け 対坪内七段
▲3七桂早仕掛け 対武者野六段
△7五歩早仕掛け 対加藤(一)九段
居飛車穴熊 VS 銀冠 対中田功五段
相穴熊 対小林(健)八段

第3章 向かい飛車編
▲4五歩早仕掛け 対羽生棋王
棒銀 対森内八段
棒銀 対村山八段

第4章 中飛車編
5筋位取り中飛車 対森内五段
ゴキゲン中飛車 対田村四段
居飛車急戦 VS 穴熊 対加藤(一)九段

玉頭位取りに失敗したが勝負はこれから

第1章 四間飛車編 玉頭位取りより ▲郷田△杉本:図は△6三銀まで
郷田九段が玉頭位取りを採用し7筋の位を取ったものの、組みあがる前に△7四歩からの逆襲にあって、位を取り返されるという作戦負け状態。ここで▲9八香から穴熊に潜り、位の圧力から自玉を遠ざけるというのが覚えておいて損の無い戦い方です。▲9八香以下は△7二金▲9九玉△8四歩▲5七銀△4一飛▲3六歩△4五銀に▲6五歩と強く指したのが好手で、自玉の固さと遠さを生かして角を捌く狙いです。

生粋の居飛車党で郷田九段の本だから全局居飛車かと思いきや、加藤九段や伊藤四段相手に三間飛車にしている将棋もありなかなか新鮮な感じがしました。

紹介されている戦型(急戦あり相穴熊あり)や対戦相手もバランスが取れており、また自分が勝った将棋ばかりでなく、対中田功六段や森内戦のように敗局も掲載している点が謙虚で好感が持てます(加藤九段の自戦記の場合は自分の勝局を載せすぎ 笑)。

自戦記はまず対戦相手のプロフィールや将棋のタイプを紹介するのが一般的ですが、トッププロはともかく微妙な中堅ベテラン棋士の場合は紹介の仕方が難しいだろうなぁ、といつも思います。だいたい「本格的な居飛車党」というのは他に褒め言葉がないときに使う枕詞ですからね。本書でもいくつか苦労の後が偲ばれます(笑)。

普通の自戦記と言ってしまえばそれまでですが、郷田九段の文章や著書は滅多に見れないので貴重でしょう。形勢判断に関する箇所以外は郷田九段の考えなどに触れる場所はありませんが、朴訥とした文章のスタイルは読みやすかったです。

ファンとしては1997年の「将棋世界」で連載されていた人気講座「長考をめぐる考察」も書籍化してほしかったですね。あれこそ、棋界きっての長考派として知られる郷田九段しか書けない内容でしたし…