小林健二:相振り飛車にツヨくなれ

力戦と見なされていた頃の本です
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評価:B
対象者:5級〜二段
発売日:1988年7月

タブロイド専門紙「週間将棋」の連載講座「必殺!相振り飛車」を単行本化したものです。1988年の出版となっていますので、当サイトの訪問者には「まだ生まれてないよ」という方もいらっしゃるのではないでしょうか?

当時の相振り飛車は現在のような定跡化はほとんど進んでおらず、どちらかというと「力戦将棋」と見なされていた節があります。本書ではプロの実戦で現れた将棋を元に小林九段の講座を読み進めていきますが、登場するテーマは現在にも通じる相三間飛車だけでなく、相中飛車、相四間飛車、横歩取り△3三桂から相振り模様、その他乱戦調があったりと様々です。

全214ページの6章構成で、見開き二番メンズが4枚配置されています。目次は以下の通りです。

  • 玉形編 基本の駒組み
  • 序盤編 相中飛車・相三間飛車・四間vs三間・三間vs向かい飛車…ほか
  • 中盤編 端の攻防(矢倉・穴熊)・相金無双・金無双vs美濃・金無双vs矢倉
  • 変形編 変則相振り飛車
  • おさらい編 次の一手
  • 実戦編 対村山・西村・内藤戦
穴熊の端の攻防を巡る戦い

中盤編 端の攻防より ▲小阪六段 △加瀬四段:図は△1三角まで
先手の角・桂・香が穴熊の急所である端を睨んでいますが、ここで▲7四歩としたのが急所の攻め。対して単に△同歩は▲8五桂で次の▲9四歩△同歩▲9三歩の攻めや、いきなりの▲9三桂成も成立します。

そこで後手は▲7四歩に△5五歩▲同角△7四歩として端を睨んでいる角道を逸らしながら、飛車の横道を通しましたが、それでも▲5五角が遠く9一の玉をラインに入れているため、以下▲9四歩からの端攻めがやはり厳しく先手優勢となりました。

序章となる「玉形編」では金無双や美濃、矢倉などの相不利で登場する代表的な囲いをその長所と短所を交えて紹介しています。また、展開によっては敗因にもなりかねない金無双の▲2八銀(壁銀)を▲1七銀として玉を広げたり、▲2六銀と上がって後手の飛車・角をいじめる、または△3六歩からの飛車先交換の際に▲3七銀と上がって上部に盛り上がる手…など囲い特有の「守りの手筋」や「玉の組み換え」に触れており相振りビギナーの方は参考になると思います。

続く「序盤編」では各戦形を指す上で気をつけたい筋を中心に解説。例えば、相三間飛車では先手が▲7四歩△同歩▲同飛と飛車先交換をした瞬間に△3六歩▲同歩(悪手:▲2八銀が正解)△8八角成▲同銀△5五角から1九の香車を取られて△7二香で飛車を殺される手順など、出版から20年経った今日でもネット将棋で誰かが嵌っていそうな筋への対応策を見て行きます。

「中盤編」は穴熊に対する端攻め・8筋への継ぎ歩、浮き飛車への「B面攻撃」っぽい筋、美濃囲いへの玉頭攻めなど現代の将棋でも通用する囲いの攻略のエッセンスを伝授。

どの章も小林九段を含めたプロの実戦で現れた局面を題材にしているので一見すると難しいような感じもするが、変化手順の解説よりも他の局面で応用が利きそうな手筋や感覚面の紹介が多いので、思ったよりも読みやすい。

相振りの実戦そのものが少ない時代の本ですので、定跡本として読むのには難があるが、相振りの手の流れや頻出手筋・攻め筋を勉強する分には現在でもそれほど遜色ないでしょう。ただし、絶版になっているうえ、現在は「相振り飛車を指しこなす本 Vol.1」など最新の形も解説した優秀な本が多く出ていますので、改めて本書を求める必要はありません。