郷田真隆の指して楽しい横歩取り

このイラストはないだろう(笑)
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評価:B
対象者:8級〜二段
発売日:2002年8月

メルヘンチック(?)な表紙から想像できるように、本書はこれから横歩取りを始めてみようという方を対象とした入門書的な一冊です。ちなみにフローラル出版の棋書はこんな感じの表紙ばかりです。

飛車角が盤上を所狭しと舞うその華麗な捌きに惹かれて、「自分も横歩取りを指してみよう」となったとき、高段者なら棋書の選択肢はいくつかあるものの、中級〜初段くらいの方の場合は「羽生の頭脳 Vol.9・10」くらいしかありませんでした。

そこで登場したのが本書です。難易度は「羽生の頭脳」よりも易しい感じです。「羽生の頭脳」が出版されたときは登場していなかった「横歩取り△8五飛戦法」にも触れているだけでなく、初心者が嵌りやすい筋も随所で解説していますので、着実に足元を固めながら同戦法を勉強することが出来るでしょう。

全224ページの4部構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1部 超急戦その1 先手横歩取り
△4五角・△3八歩

第2部 超急戦その2 相横歩取り
▲7七銀・郷田新手・▲7七桂

第3部 持久戦その1 △3三桂

第4部 持久戦その2 △8五飛
組み上げまでの基礎知識・▲6八玉・▲5八玉−▲3八金型・▲5八玉−▲3八銀型・△8五飛阻止型

一見成立しそうな手は実は巧妙な罠

第1部 超急戦その1 先手横歩取りより:図は△8六同飛まで
ここで▲3四飛ならいよいよ本格的な横歩取りになるわけですが、一見すると▲2二角成△同銀▲7七角が成立するような気がしませんか?

実はこれは巧妙な罠で、△8二飛と引かずに強気に△8九飛成として、後手良しとなるのです。△8九飛成から▲2二角成△同金▲同飛成となった局面が断然先手優勢に見える下の図です。

後手からは王手飛車の筋がありました

後手玉には▲4一金△同玉▲4二銀△5二玉▲3三銀成以下の詰めろがかかっています。後手は絶体絶命のようですが、ここで△7九龍という起死回生の一手があるのです。

▲7九同金は△7七角が王手龍取りで先手は飛び上がります。▲7九同金に代えて▲6九金と打つのは手持ちの金を使ったために、後手玉への詰めろが消え、△9九龍で後手優勢となります。

このような誘惑に駆られそうな変化のほか、郷田九段のオススメの秘手(上図1枚目で▲3四飛に対して△3八歩▲同銀△4四角とする順)など、有段者でも意外と知らない筋も登場しています。

横歩取りは他の戦型では考えられないような奇想天外な手が定跡のなかに組み込まれています。本書は横歩取りのプロローグを飾る一冊ですが、「横歩取りの常識」を身に着けるには十分です。

ただ、自分が後手番になった時は戦型の選択権を握っていますので問題ありませんが、先手番になった場合には1990年代の後半から一大ブームを巻き起こし、現在でも根強い人気を誇っている「横歩取り△8五飛車戦法」になりやすく、対△4五角戦法・△3三桂戦法などを勉強してもその成果を出すチャンスがなかなか巡ってこないのネックですね。