谷川の21世紀定跡 Vol.2 横歩取り△8五飛戦法

松尾新手も登場
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評価:B
対象者:7級〜三段
発売日:2002年3月

最新定跡を解説する「谷川の21世紀定跡」シリーズ。第1弾は谷川九段の十八番「角換わり戦法」をテーマにしていましたが、第2弾となる本書では「横歩取り△8五飛戦法」をピックアップ。

同戦法の本格的な定跡書としては、創案者である中座七段による「横歩取り後手8五飛戦法(2001年)」に次いで2冊目となります。

全213ページの4章構成で見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。なお、第4章の「実戦編」はいわゆる自戦記形式となっており、巻末の参考棋譜は注釈でポイントとなる手を簡潔に解説するスタイルとなっています。

第1章 プロローグ−△8五飛戦法の出現−
第2章 ▲6八玉型の攻防
第3章 角交換型の攻防
第4章 実戦編(対羽生×2・丸山×4・島…計7局)
参考棋譜(対塚田・森内×2・羽生・屋敷…計5局)

一見奇抜に見える一手ですが、狙いがあります

第2章 ▲6八玉型の攻防:図は△5五飛まで
△5五飛は「松尾新手」と呼ばれるものです。雑誌「将棋世界」に掲載された「アサヒスーパードライ」の広告にも松尾七段の写真と共に登場した有名な一手です。

△5五飛に対して▲同角とするのは△同角▲8八銀に△4四角打とされて先手不利となります。そこでこの局面では▲4五歩△5四飛が定跡手順。以下▲3三角成△同桂▲6六歩などの実践例があります。

プロローグでは△8五飛戦法が出現したときの谷川九段の感想(第一感、△8五飛は悪形である)から始まって、同戦法を指すうえでの絶対にマスターしなければならない変化、実際に採用し初勝利を上げるまでの過程、同戦法の魅力(矢倉や振り飛車にはない、ダイナミックな駒の躍動感)などが語られています。

通常の棋書ではプロローグの項には勝敗に直結するようなことは書かれていないのですが、本書では上記の「同戦法を指すうえでの絶対にマスターしなければならない変化」が見逃せません。具体例を一つ挙げると序盤で下の図のように▲9六角という変化があります。

序盤の危ない筋を乗り越えないとこの戦法は指せない

第1章 プロローグ−△8五飛戦法の出現:図は▲9六角まで
長くて恐縮ですが、▲9六角に対しては△6五飛▲6六歩△6四飛▲6五歩△8四飛▲6三角成△5二金▲9六馬△4四角▲2四飛△7七角成▲同金△2四飛で後手十分となります。

この変化も含めて、△8五飛戦法の序盤には一見すると悪形に見える飛車の位置を咎めようと様々な変化が存在します。それらを乗り越えないとこの戦法は指しこなせません。森下九段の「8五飛を指してみる本」でも、これらの変化は一つ一つ潰していますが、本格的な定跡書である本書でも掲載しているのは嬉しいところ。

1枚目の図面の「松尾新手」を含めて、掲載されている手順は出版当時で最新のものです。本筋の手を中心に解説し、枝葉に及ぶ変化手順は軽く触れる程度ですが、駒割りや駒の働き、攻めの手段の有無など理論的な裏づけを明快にしてから形成判断や結論を記しているのはわかりやすいですね。

ただし自戦記と参考棋譜が90ページあるのがやや惜しいところ。足りないところは先述の「横歩取り後手8五飛戦法(中座七段)」と合わせて読んで補うのもいいかもしれませんが、2009年末に高橋九段が著した「最新の8五飛戦法」が、ネットでの評判を見る限り非常にいい本のようです。最新形が気になる方はそちらもチェックしてみてはいかがでしょうか?