谷川浩司全集〈平成元年度版〉

平成元年度は絶好調
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評価:A
対象者:5級以上
発売日:1994年1月

プロ棋士も唸らせるその華麗な寄せから「光速流」の異名をとる谷川浩司九段。将棋の内容だけでなく、その紳士的な態度、凛とした佇まいはまさに「トッププロの鑑」といえる存在で、現在に至るまで多くのファンを魅了しています。

本書はその谷川九段の各年度の全対局を自戦記と棋譜解説形式(盤面と注釈付き)で掲載した将棋ファン垂涎の一冊です。本シリーズは平成11年分まで出版されていますが、今回はシリーズ初回となる平成元年分をレビューします。どれも構成は同じですので、他の年度の分も参考になればと思います。

全317ページの2部構成となっています。また、冒頭にはその年度の対局風景のモノクロ写真が数ページ分、巻末には棋戦別の記録のほか、戦型・対戦相手ごとに棋譜を簡単に検索できるように「戦型・対戦棋士別索引」も用意するなど、棋譜並べをする読者を意識した工夫がなされています。目次は以下の通りです。

第1部 自戦記編(全15局)
・第47期名人戦 第一局・四局:米長邦雄九段
・第54期棋聖戦:羽生善治五段
・第30期王位戦 挑戦者決定戦:森下卓五段
・第30期王位戦 第三局・五局:森けい二王位
・第10回将棋日本シリーズ:中原誠棋聖・王座
・第10回将棋日本シリーズ 決勝:島朗竜王
・第8回全日本プロトーナメント:佐藤康光五段
・第8回全日本プロトーナメント決勝 第一局・三局:羽生善治竜王
・第2期竜王戦ランキング戦1組:南芳一王将・棋王
…ほか

第2部 棋譜解説編(全45局)
対米長九段・加藤九段・村山五段・森王位・中村七段・島竜王・勝浦九段・井上五段・屋敷四段…ほか

鮮やかな寄せ

第10回将棋日本シリーズ決勝 ▲谷川名人 △島竜王より:図は△7七歩まで
△7七歩は詰めろでないので、必死を掛けても先手勝ちですが…
即詰みがあるときは詰ますのが私の身上だ(P153より)』と、▲2二金△同銀▲4三桂△3二玉▲2二歩成△同玉▲2四飛△2三歩▲3一銀…以下23手目詰め(!)に討ち取りました。持ち時間10分の公開対局の秒読みなのに凄すぎる…

谷川九段の平成元年度の成績は44勝16敗(勝率:7割3分3厘)と、10年ぶりに勝率を7割代に乗せました。内容も名人戦で挑戦者の米長九段を4−0のストレートで圧勝、前年度に王位を奪われた森九段にリターンマッチを挑んで4−1の雪辱を果たすなど、羽生竜王に負けた全日プロの決勝三番勝負と米長九段に敗れた王将戦挑戦者決定戦以外は大変充実したものではなかったでしょうか。

自戦記編はページ上部に進行図と棋譜(考慮時間も明記)が、そして下半分が途中図や参考図が2枚配置されています。一局あたり10〜15ページと余裕を持った構成なので、谷川九段による指し手・変化手順の解説、形成判断や対局中の考えなどをじっくりと読むことができます。

1ページ内で進む手順がやや多いときやポイントとなる手が出現した際には、同一ページ内で掲載されている途中図が、理解を助けるうえでありがたい。

第2部の棋譜解説形式もポイントとなった手(10手前後)には注釈で短い解説をつけ、盤面図も1局あたり5枚も掲載するなど、わかりやすい構成になっています。

解説以外では、王将戦挑戦者決定戦で敗れた夜、塚田八段のマンションで行われていた忘年会に足取り重く訪れた谷川九段。同席した島さんは前日に竜王位を羽生さんに奪取されたばかりなので、慰めようと思っていたら「結婚することになりました」といわれて、逆に落ち込んだ(笑)という貴重なエピソードも登場します。

戦型は「矢倉」が圧倒的に多く25局を占めており、次いで多いのが「相掛かり」が6局、以下「ひねり飛車」と「対中飛車」が5局ずつとこの辺りはちょっと意外ですね。

その年度によって流行がありますが、谷川九段が振り飛車も指すようになったのは近年になってからですので、将棋ファンの中でも特に居飛車党の方は本シリーズで学ぶところが多いでしょう。

なお冒頭で「本シリーズは平成11年分まで」と書きましたが、平成12年以降は価格・サイズ等のリニューアルを経て「新・谷川浩司全集」として新スタートしていますので、そちらも参考にしてみてください。