手筋の隠れ家(週刊将棋編)

中・終盤の実践的な勝負術を紹介
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評価:B
対象者:3級〜四段
発売日:2010年4月

タブロイド専門紙「週刊将棋」に連載されていた同名の講座を再構成して単行本化したものです。「手筋」というタイトルが付いていますが、実際はアマ有段者(高段者と推定)の将棋を題材として、手筋の活用も含めた中・終盤での実戦的な駆け引き、勝負術などを解説しています。

「週刊将棋編」の姉妹シリーズの前作にあたる「すぐに使える将棋の手筋」が、構成面に難があったこともあり、なかなか手を出しにくかったのですが、結論から言うと本書はタイトルと内容がいまひとつマッチしていないものの、なかなか読み応えのある出来になっています。

全221ページの2章構成で、居飛車・振り飛車それぞれの立場で考えられるように、第1章が「居飛車編」、第2章が「振り飛車編」となっており、合計で107のテーマが用意されています。盤面図は見開きに3枚配置となっています。

なお、トップページの新刊案内で紹介した際にも書いたのですが、本書を含め「週刊将棋編」として出版されている多くの棋書の執筆に携わってこられたアマ強豪・新井田基信さんが去る2月19日に逝去されました。手弁当で将棋大会の運営や普及に努められるなど、大きな功績を残されました。謹んでご冥福をお祈りいたします。

後手玉は端が攻守の命綱です

第1章 テーマ11 穴熊の端は受けすぎるくらい受ける より:図は△6三同金まで
居飛車穴熊リードで迎えた局面ですが、彼我の攻防の命綱である9筋の形勢は後手有利。▲9四歩△同銀▲8六桂は△9二香、▲9五桂なら△9四香とされて、何かのときに△9三玉とされてしまいます。

ここでは、△6四馬と9筋の2枚香を防ぐ▲8六金が、穴熊党なら身に付けたい手厚い一手となります。以下、△9七香成▲同銀△8五桂には、▲8八金上と遊んでいる7九の金を活用しながら、玉の逃げ道を作ります。

2筋の集中砲火が来る前に決める

第2章 テーマ68 優勢のときこそ激しく攻める より:図は△6九飛まで
駒の損得では互角ですが、馬の働きに大きな差があるため、振り穴優勢です。
しかし、ゆっくり▲4一龍として次の▲5六桂を狙うのは△1四桂▲5六桂に△8八馬とされて、次の△2六歩がなかなか厄介な攻めとなります。

ここでは▲5六桂△5五銀▲4四香△同銀▲同桂△同金▲5三銀と緩めずに攻め、以下△4三金引にはバッサリと▲2四馬と切り、△同銀▲4四香として一気に銀冠を弱体化させます。

アマの将棋、特にネット将棋に代表される早指しでは、必ずしも「最善手=勝ち」とは限りません。なかでも、終盤での最善手順は複雑かつ彼我の玉の絡みもあり、下手すると一気に敗勢に陥ることも多々あります。

そこで本書では、優勢な局面では方針が立てやすく、逆に形勢が芳しくない局面では粘っこい「実戦的な次善手」を見て行きます。「週刊将棋」連載時には、"勝ちやすい次善手たち"というサブタイトルが付いていましたが、そちらの方が本書の内容を端的に表しているといえます。

講座の進行スタイルは、1/2〜1ページ近くをテーマ図での形勢判断・候補手の簡潔な検討・目の付け所などの解説に割いています。

上で紹介した1枚目の盤面図のように、テーマ図から1手示すだけで感覚的に、あるいは3〜5手読みを入れるだけで「なるほど」と納得できるものあれば、テーマ図から10手近く進めて、第2図にバトンタッチし、さらに局面を進めた第3図で「着地点が見えたかな」というものも数題あり、難易度はテーマによって大きな差があります。

手数の短いものは、本書を読んだ後の実戦での「速効性」がある程度期待できるでしょう。その一方で、寝技的な受け・B面攻撃・自陣の邪魔駒消去など、曲線的かつ手作り感が一杯のテーマは、読みの訓練としては適していますが、やや明快さに欠けるため、「効果のほどは?」と思う方もいるかもしれません。

この辺りは読み手の方が本書に何を期待しているかによると思いますが、ネット将棋道場の「倶楽部24」で高段者の将棋をよく観戦している方、中・終盤の実戦的なねじりあいを勉強したい方は面白く読めるでしょう。