名人、米長邦雄のすべて

評価:A
対象者:米長ファン必携
発売日:1993年7月

本書は、挑戦すること七度&前人未到の四十九歳で悲願の名人位を獲得した米長永世棋聖の『名人位獲得記念 1993年 将棋世界 8月号 臨時創刊号』です。

米長永世棋聖による勝負哲学に関するエッセイ・名人戦自戦記(全4局)・写真集(弦巻勝)・トッププロによる米長将棋の分析・観戦記者達によるエッセイ・各界からのメッセージ・勝局集50選など、米長ファンにとってはたまらない内容になっています。

(残念ながら既に絶版になっていますので、手に入れるのは難しいかもしれません)

穴熊の堅陣に物を言わせて猛攻を仕掛けます

▲米長△中原(第51期名人戦第二局より)より:図は△4二角まで
ここで▲4六歩が決断の一手で、角道が止まるので当然の△1四歩に、以下▲同香△同香▲同飛△1三香▲同飛成△同銀▲4五歩△4九飛▲4四香△同金▲同歩△4八飛成▲4三金と猛攻を仕掛けました。

矢倉から穴熊に潜る前の段階で上がった▲1七香の一手に131分、そして▲4六歩に72分と長考を重ねていますので、飛車損の攻めでも先手良しということでしょう。

〜内容〜(全258ページ)
第51期名人戦七番勝負 米長邦雄自戦記
勝負哲学を語る
盤側で見た米長邦雄(加古明光)
写真で見る人間米長の魅力 (弦巻勝・中野英伴)
これが米長将棋だ〜前進続ける米長将棋(高橋道雄)
米長将棋の魅力  (谷川浩司・羽生善治・森下卓・塚田泰明)
各界に聞く〜おめでとう米長邦雄名人
名人誕生異聞
エッセイ (東公平・高橋譲司・団鬼六・福本和生・高橋呉郎他)
記録・統計
対局日誌
米長語録で見るあの日あの時
米長将棋勝局集50選

米長永世棋聖は当時、将棋世界に自戦記を持っていたので、ご覧になっていた方は本書における語り口を大体想像できると思います。

「秒読みに追われて逃げまどう私(米長)の顔がクローズアップされたらしい。アップに耐え得る顔というのは有り難いもので、大勢の視聴者がいたく感動したということであった。」

「金得になっている。シリーズの始まる前に『金丸問題』を言われたが、最終局で佐川急便の『金損』を取り返した。夏に山梨県(金丸元副総理・米長永世棋聖の地元)から県民イメージアップ賞を頂くことになった」

「あの神武以来の天才といわれた加藤一二三先生の評に曰く『この将棋は米長さんの勝ちですね』。やっぱり俺を好きな人は見る目が違うようだ」等々ユーモアあふれる独特の文章が数多く出てきます。

勝局50選も単なる棋譜の掲載に終わらず、各局につき局面図を5枚・解説付と丁寧な作りになっていますし、対升田・花村・大山・灘・二上・羽生・谷川・森内と、新旧のトッププロとの対戦を多くピックアップしてあるのも 良いですね。

ニュースマンさん(24強豪・五段)とも話したのですが、この名人戦第二局(相矢倉)における米長永世棋聖の『攻め』っぷりは強烈なものがあります。

矢倉穴熊から雀刺し→飛車香の交換(駒損)から遮二無二攻めて押し切るのですが、早指しならともかく、持ち時間9時間制でこれだけの快勝は心身ともに余程充実していた証拠なのでしょう。

これで流れに乗ったのか、前六回の挑戦の鬱憤を晴らすかのように一気の4連勝で名人位に就きました。

なお27ページ目に米長永世棋聖が鳥取砂丘で全裸(フロントショット)になっているカラー写真がありますが、この写真を撮った弦巻氏曰く「材料のいいマグロをさっと切り出す寿司屋。材料が良くないと写真は撮れません。 それ(材料)をなにもいじらずに皿に出す。それが一番と考えます。」だそうです(笑)。

名人獲得記念としては、この半年後に「米長邦雄:泥沼流振り飛車破り」も出版されています。玉頭位取りなど、厚みを重視する米長永世棋聖の将棋を勉強できる良書ですので、そちらの方も参考にしてみてください。

また、引退記念としては「米長邦雄の本」も出版されており、自戦記や棋譜解説と読み物が半分ずつの構成になっています。