杉本昌隆:相振りレボリューション

シリーズ5作目
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評価:A
対象者:5級〜四段
発売日:2010年11月

タイトル名の後に刊行順を示す番号を付けなくなったため、どれが最新刊なのか分からなくなってしまいそうな「相振り革命」シリーズ。「レボリューション=革命」ですので、下手したら本書が第1巻と思う方もいるんじゃないかと心配になりますが、「相振り革命最先端」に続くシリーズ第5作目となります。

構成は全239ページの5章から成っており、盤面図は見開きに4枚配置されています。目次は以下の通りです。

序章 現代相振りの考え方
第1章 ▲三間飛車 vs △5三銀型三間飛車(先手ジックリ型)
第2章 ▲三間飛車 vs △5三銀型三間飛車(先手軽快型)
第3章 相三間後手の秘策(△8ニ角戦法、△穴熊)
第4章 ▲向かい飛車 vs △三間飛車
第5章 その他の相振り(相三間 阿部新手ほか)、速攻三間(稲葉新手)、東大流中飛車左穴熊対策

B面攻撃で作戦勝ちを狙う

第1章 ▲三間飛車 vs △5三銀型三間飛車 より:図は△2四飛まで
パッと見て頭に浮かぶ▲6五歩△同歩▲7四歩△同歩▲6五桂△6四銀▲7三歩の攻めは、以下△同桂▲同桂成△同銀▲8五桂に△6ニ銀と引かれて二の矢がありません。

ここでは自玉周辺に視点を移して、▲3六歩△同歩▲同金と飛車を攻めながら3筋の位を奪還しにいく「B面攻撃」が有力です。一瞬、不安定な形となりますが、▲4七銀〜▲3八金となれば、上部に厚い形となり作戦勝ちが望めます。

相振り版の藤井システム?

第3章 相三間後手の秘策(△8ニ角戦法)より:図は▲7四同飛まで
相三間の序盤で、双方が飛車先交換から歩を2枚手持ちにしたところです。
相振りに強い人は歩の持ち数に敏感ですので、棋力が上の方ほど頻出の局面ではないでしょうか?

上図で△5五角と出るのが従来には無かった全く新しい指し方です。
以下▲3七歩△3四飛▲5六銀に△8ニ角と転換するのがこの戦法の狙いで、将来の△3三桂→△3六歩から先手の美濃囲いを狙い撃ちします。

後手は角道を通すため、7筋がスースーしたまま戦いますので、玉は居玉のまま。このあたりは「相振り版の藤井システム」といった趣がありますね。4手目△5四歩の相三間は左銀の差で先手が攻勢をとりやすいのですが、この戦法はオススメです。

強引に角交換を狙う

第4章 ▲向かい飛車 vs △三間飛車より:図は▲4八玉まで
最近はめっきり少なくなった▲向かい飛車。後手の早めの歩交換+浮き飛車には、その動きを逆用して矢倉から上部をモリモリ盛り上がって、飛車を圧迫すれば即「作戦勝ち」が望めたのはちょっと前までの話。

後手は、図から△4五歩▲同歩△6五歩▲同歩△7七角成▲同桂△2ニ角と強引に攻めます。以下▲5九角△5五銀▲同銀△同角▲4六銀△3三角とすれば、飛車の横利きがスッキリ通ったので、△7四飛→△6六歩→△6七銀などの攻め筋があり、後手優勢です。

形は多少違っても、例えば先手の矢倉が完成していても、この狙い筋は成立しますので、▲向かい飛車vs△三間飛車での対矢倉戦にアレルギーがある方は是非とも覚えておきましょう。

序章では近年の相振り飛車のトレンド、すなわち三間飛車がここまで採用されるに至った理由、逆を言えばそれまで最有力だった向かい飛車が何故減少したのか、その理由が解説されています。

それぞれの背景には、@久保二冠や鈴木八段の創意工夫により、石田流のポテンシャルが大いに見直された結果、3手目に▲7五歩と突く振り飛車が激増したこと、A3手目▲6六歩(向かい飛車を目指すなら必要)は、後手が△8四歩から居飛車にしてきた場合、藤井システムをもってしても居飛車穴熊を防ぐことができない、という事情があります。

そのほか、本書の全テーマの根底にある重要な考え方として、@最小手数で飛・角・桂による攻めの体制を整える三間飛車の台頭により、軽快かつスピード感のある指し方が今まで以上に求められるようになった、A相振りにおける矢倉が以前ほど有力視されなくなったため、矢倉に対して滅法分が悪かった「浮き飛車」が復権した、などが挙げられます。

本書は構成の半分以上が相三間飛車の戦いに割かれているうえ、先手・後手のどちらも良くなる形を紹介しているため、2〜3回読んだだけでは、「どっちが良かった」か迷うケースもあるかと思います。

そのため、相三間を解説した第3章の終わりには、第1〜3章までに登場した定跡の流れを再現する復習のコーナーが、比較的長めに(9ページ)用意されています。

また、主役の座を相三間に渡すことになった▲向かい飛車 vs △三間飛車の章では、先手と後手の立場にテーマを分けて、それぞれどのような工夫を行うかを解説。居飛車対振り飛車なら、どちらか一方の立場での考え方を記しておけば事足りますが、相振り飛車の場合はどちらの立場でも指す機会がありますので、ちょっとしたことではありますが、こういう構成は役に立つと思います。

最終章では、相振りの本ではありますが、3手目▲7五歩に後手が△8四歩から居飛車を選んだ場合の戦い方から、最近話題になっている稲葉流(▲7四歩△同歩▲5八玉)を24ページにわたって解説しているのをはじめ、初手▲5六歩から中飛車に組み、左穴熊に潜る東大流中飛車左穴熊への対抗策など、バラエティに富んだ内容になっています。

前巻は前書きにおいて、著者の杉本七段が「あえて特殊な戦型をクローズアップしてみた。」と記していたように、相振り飛車の「一見さんお断り」的なページも多く、シリーズの中でもやや特殊な位置づけにありました。

しかし、本書では近年の相振り飛車のなかでも頻出度が最も高い「三間飛車」にスポットを当てているため、相振り飛車の基礎をある程度勉強した方なら、どなたでも良質な参考書として読むことができます。ちょっと前の常識は通じなかったりする日進月歩の相振りの「今」を知るには最適の一冊ではないでしょうか。