矢内理絵子×茂木健一郎:女脳

なんだか表紙デザインが萌え系を連想させる
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評価:B
対象者:山崎隆之七段と将棋ファン全般
発売日:2009年6月

若干17歳で女流名人の座に就いた里見香奈女流名人と共に、将来の女流棋界を背負っていくこと間違いなしの矢内理絵子女王。

近年は対局での活躍以外にも「NHK杯将棋トーナメント」の司会者を務めたり、名人戦の大盤解説での山崎七段との微笑ましい絡み(下のYouTube動画を参照)もあって、盤外における注目度も高まっています。


画面中央の矢印をクリックすれば動画が自動再生されます。それにしても再生回数が395万回を越えている将棋動画が他にあったでしょうか?

本書はそんな矢内女王とNHKの人気番組「プロフェッショナル〜仕事の流儀」の司会者でも有名な脳科学者の茂木健一郎さんとの対談集です。

脳をフル回転させる「棋士」という職業に対して、脳科学者として自然と興味を持ったのか、あるいは「プロフェッショナル〜仕事の流儀」で羽生四冠や森内九段をゲストに招いて対談してることもあってか、会話の中に江戸時代の御前将棋やボナンザ(将棋ソフト)、加藤一二三九段のうなぎ、などがポンポン登場しており、茂木さんの将棋に対する認識は一般の人より深いことが伺えます。

僕はスポーツ評論家の二宮清純さんが好きで、テレビや雑誌で対談をよく見るのですが、スポーツ選手をゲストに迎えたときの対談は流石に専門家だけあって会話のキャッチボールがとても深くて楽しめます。

しかし、羽生さんなど異業種の方をゲストに迎えると、二宮さんが専門外の分野の知識やバックグラウンドをそれほど深く理解してなさそうなのに、背伸びをして話しているように感じたり、関係ない話題も無理やりスポーツに結び付けようとすることもあり、残念だと思うことがたまにあります。

一方、茂木さんは将棋に対する認識はかなり持っているようでもそれを前面に押し出そうとせず、矢内さんのファンが聞きたいようなややミーハー的な質問を混ぜつつ、専門分野である脳(直感・ひらめき・男女の思考の違いなど)についてを「将棋」というフィルターを通して、事例を交えながらわかりやすく話をされています。

対談は2回に分けて行われたようで、その間にはMONOLOGUE(=独白)のコーナーがあります。矢内女王は「ひらめきの秘密」と題して、自身の「直感」や「ひらめき」が生まれる背景を中心に、これまでのそしてこれからの女流棋士としてのあり方を語っておられます(約30ページ)。

一方、茂木さんは「目に見えない表層の世界」と題して、テレビやゲームなどの「目に見える世界」とは違い、その時点では誰にも見つかっていない(=目には見えないもの)を自ら探索することに将棋の魅力の本質があると分析、その辺りの話題を中心に古代ギリシャの逸話を交えつつ解説(4ページ)。

難しい話はほとんど出てこないため、2時間もあれば読みきれる内容です。将棋ファンはもちろん、それほど将棋に興味の無い方でも十分楽しめる内容となっています。山崎七段は既に買っていると思いますが、保存用にもう一冊どうぞ!