新アマ将棋日本一になる法

彼らの上を行くプロの凄さもわかります
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評価:B
対象者:本気でアマトップを狙う方
発売日:2008年8月

天野高志、遠藤正樹、清水上徹、山田洋次氏をはじめとするアマトップ棋士が実践してきた上達法を「初心者〜有段者」「有段者〜県代表」「県代表〜日本一」の3つの段階に分け、半生を振り返りながら自らの言葉で書き綴った一冊です。

皆さんは大学の将棋部が発行する部誌・機関紙をご覧になったことはあるでしょうか? その年のリーグ戦やトーナメントで活躍された学生・OBの皆さんが、自己紹介を兼ねて自戦記や勉強法、日々の雑感などを綴った手作り感が一杯の本なのですが、本書はそれをもう少し発展させたような構成になっています。

全389ページ。登場するのは以下の11名ですが、最後の3人の方のページは「強豪列伝」というタイトルがついており、上達法というよりは真剣師としての生き様についての話が中心となっています。巻末には歴代のアマ名人戦県代表者(1968年〜)がズラリと表になって紹介されています。

天野高志 極限状態で将棋を渇望した半生
遠藤正樹 豊富な練習量を支える情熱と仲間達
清水上徹 プロ公式戦予選選突破をねらう
田尻隆司 湧き上がる情熱で生涯トップに
早咲誠和 将棋モードでは隔絶した集中生活
山田敦幹 楽しさに執念を加え爆発させる
山田洋次 大会は普段の勉強法を試すとき
渡辺俊雄 気負わない自分らしい一手を
平畑善介 史上最強のアマ名人
大田学 最後の真剣師
小池重明 伝説の真剣師

まず冒頭で自己紹介も兼ねて「将棋を覚えた時期・きっかけ」「好きな戦法」「ライバル」「座右の銘」「おすすめの棋書」などの一問一答でスタートし、その後は冒頭で書いた上達法の解説やスランプ時の脱出方法、大会での思い出深い一手を盤面と共に見て行きます。

上達法については、結論から書くと「プロ棋士の棋譜並べ」「短手数の詰め将棋をたくさん解く」「自分より強い人と指す」など、一般的なものばかりですが、アマトップだけあって将棋にかける情熱には圧倒されます。なかでも早咲さんは「将棋のために勉強部屋を設けて、仕事以外の全ての依頼(飲み会、結婚式など)を全て断った」、「(銀河戦を前に)自宅から離れて盤・駒を持ち込んでの山篭り生活に夏休みをあてた」、「対局で地元の九州を離れるときには、マイ納豆を持参(!)」などプロの三浦八段にも匹敵する気合の入れようです。

各氏の考え方で一番違いがみられたのは、スランプについて。『スランプに陥ったことはない。負けるのはただ実力がないだけだから。スランプだと思って悩むくらいなら、自分はまだまだ弱い、だからまだ十分に延びる余地がある。(遠藤)』、『スランプの主原因は、自信をなくして自分の指し手が信じられなくなること。だから唯一の脱出法は、今まで自分が気持ちよく勝った将棋を、徹底的に繰り返し並べることである。(田尻)』、『悩みすぎないことが大切。スランプになるということはそれだけ将棋に打ち込んだという証とも言える。(山田洋)』、『スランプは実力と比較して勝てないことと思いますが、その逆に実力と比較して勝てることもあるので、巡り会わせと思って気にしない。(渡辺)』など。

なお、ネット将棋での対局については、多くの方がその有用性を認めつつも、「読みが雑になる」などの理由からほとんど指していないようです。

インタビュー形式で話を聞いたライターさんがテープを掘り起こしながら、よりわかりやすいように適当な言葉に置き換えたりする構成ではなく、各氏の言葉でそのまま書かれていますので、人物像が文体を通じて伝わってくるのが特徴です。ただその分、文体が読者に合う・合わないというのは当然出てくるでしょう。

個人的には広瀬五段との共著「とっておきの相穴熊」でもお馴染みの遠藤正樹さんの文章が読みやすく、実践している上達法の根底にある考え方なども具体的に紹介されていて一番リアリティがありました。例えば、棋譜並べについては、高校3年間の野球部(強豪・東海大一高)での練習と対比しながら、『上手い人のピッチングフォームを真似しても耐力、筋肉の質が違うから思うようにはいかない。しかし、将棋は強い人の手を同じように盤上に再現することができる。棋譜を並べることは、スポーツではできない一流選手の技能を体感できることでもあるのだ。そして、長時間繰り返しても筋肉が悲鳴を上げることもない。強くなりたかったら、やるだけだ。』と実に明快です。

監修が故・小池重明氏に関する著書も手がけている宮崎国夫さんということもあってか、各氏の質問事項の中に「伝説の真剣師・小池重明をどう思うか」と将棋の上達と関係のない話も出てきます。それだけ思い入れが強いということなのでしょうが、皆さんの回答を見ると行間から「???」な感じが伝わってきて、質問自体が空振りになっています(笑)。

また、小池重明、平畑善介、大田学の3氏のページは他の本で掲載されている文章をそのまま抜粋しただけですので、わざわざ本書に収めなければならなかったかどうかちょっと疑問です。僕が推測するに「今の若い人は知らないと思うけど、昔はこんな凄い人たちもいたんだよ」というのが宮崎さんの意図だと思うのですが、この100ページのおかげで2200円という高額な部類に入る値段になってしまいました。

将棋とどう付き合うかは皆さんそれぞれです。本書で紹介されているように「どんな苦労や努力も厭わずに本気でトップを目指す」方もいれば、「休日に趣味の範囲で楽しみたい」、「将棋を通じて仲間との交流をはかりたい」、「棋力はルールがわかる程度だけど、とにかく羽生さんを応援している」、「女性にモテたい一心で将棋を指している」方もいます(一部嘘あり)。棋力の向上が全てではなく、自分にあった楽しみ方を見つけるのが一番いいでしょう。そんななかで、本気で県代表クラス以上を目指している方ならば、本書は読んでおいて損はないと思います。