佐藤康光:康光流現代矢倉 Vol.3 急戦編

天敵であるスズメ刺しも5局収録されています
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評価:B
対象者:5級〜三段
発売日:1997年11月

シリーズ最終巻となる本書では、プロの公式戦からは姿を消して久しいものの、持ち時間の短いネット将棋では根強い人気を誇る「矢倉急戦」がテーマとなっています。

玉は薄さと引き換えに後手番ながら主導権を握れ、かつ攻撃力にも優れているということで、矢倉党の方なら知って置いて損はない戦法ばかりです。特に自分が受けにまわった場合を考えると、本書の内容はマスターしておきたいですね。

佐藤棋聖は前書きで『米長流(急戦矢倉)は私も奨励会二、三段時に連続採用し、高い勝率を上げた思い出の戦法である。』とおっしゃっていますが、最近売り出し中の若手・阿久津六段もこの米長流矢倉を非常に得意としておられたそうです。

第1章 急戦矢倉編(米長流急戦矢倉、中原流急戦矢倉)
第2章 矢倉中飛車編(矢倉中飛車、塚田流△6二飛戦法、郷田流5筋歩交換ほか)
第3章 原始棒銀編 (△原始棒銀、△右玉)

米長永世棋聖が四冠王になったときの原動力

第29期王位戦 予選 ▲佐藤△中田(宏)より:図は△4四銀まで
米長流急戦矢倉からの変化です。以下、▲6八角△5五歩▲同歩△6五歩と左銀を中央に進出させます。ここで▲6五同歩は△同桂▲6六銀△6四銀とされ、次の△5七歩の垂れ歩などの狙いがあり後手指しやすくなります。

そこでこの形では、▲6五同歩に代えて、▲2四歩△同歩▲2三歩△同金▲2四角とするのが覚えておきたい手筋です。△同金は▲同飛△5三金(飛車の横利きを通す)▲2三飛成で先手良しとなります。

全局が佐藤棋聖の実戦ですので、一方的に攻めつぶされたり、あるいはいきなり攻めが切れるようなことはありません。急戦矢倉というと大味なイメージが付きまといますが、矢倉党の方は、本書に登場するプロならではの細かい手のつなぎ方を是非勉強してみてください。

ただ逆に、プロの実戦であるために、その戦法の狙い筋、つまり「その急戦がバッチリ決まったときはどうなるのか?」がわからないのが難点です。

例えば、△米長流では△7五歩と突き捨ててから、角を切って十字飛車で決めるという有名な筋があるのですが、その狙いが紹介されていなかったりします(具体的には「最新矢倉の正体」のページの盤面図を参照)。その辺りも掲載してくれないと、これから指そうと思っている方は戸惑うのではないかと思います。

なお、米長流や塚田流△6二飛戦法、矢倉中飛車が、どうして現在のプロ棋戦から姿を消したのか(つまりどのような対策が現れたのか)を知りたい方は、勝又六段の「消えた戦法の謎−あの流行形はどこに!?」を参考にしてみてください。

テーマから右四間飛車が漏れているところが残念ですが、矢倉急戦だけを解説した棋書は他にないので本書はかなり貴重です。

2007年末追記:矢倉の基本定跡と手筋を「次の一手」形式の問題(150問)にまとめた「佐藤康光の居飛車の手筋 Vol.2 強襲・矢倉編」が出版されました。