屋敷伸之:対居飛車 右四間飛車戦法

後手番での解説はなく今一歩の出来です
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評価:C
対象者:8級〜3級
発売日:2010年7月

「攻撃は最大の防御」とばかりに、攻めっ気120%の陣形から飛・角・銀・桂のコンビネーションパンチを繰り出す対居飛車(矢倉)の右四間飛車。その明快なコンセプトに魅せられて十八番にしている方もいれば、受ける立場で辛酸を舐めさせられている方も少なくないことでしょう。

本書はそんな相居飛車における同戦法の代表的な狙い筋や戦い方のコツを中級者向けに解説した指南書です。著者は若干18歳で当時の中原棋聖からタイトルを奪取(タイトルホルダーの最年少記録を樹立)した屋敷九段。
現在はB級1組ですが、C級1組での停滞期が長かったため、本人もファンも相当やきもきしたのではないでしょうか?

全222ページの4章構成で、見開きに4枚の盤面図(ページ上部に進行図×2、下部に結果図or参考図×2)を配置。各章末には復習用に「次の一手」形式の問題が掲載されています。

なお、三浦八段など一部の愛好者を除いては、プロ公式戦での採用率は高くないものの、我々アマチュアには根強い人気を誇っている対振り飛車における右四間飛車は登場していないのでご注意ください。目次は以下の通りです。

第1章 対矢倉編
第2章 対矢倉▲3八飛型
第3章 対雁木編
第4章 対角換わり編

角のラインを活かす攻め筋は?

第1章 対矢倉編より:図は△2ニ玉まで
相矢倉のオープニングだからといって先手陣の構えを見ないで、いつも通りに△2ニ玉と矢倉に入城するのは、対右四間飛車において危険な一手となります。

すなわち先手の角のラインに玉が入ることになるため、盤面図から▲2五桂△2四銀▲4五歩(△同歩と取れない)が絶好となり、4筋に対する飛・角・銀・桂の集中砲火を凌ぎきれません。

袖飛車から一歩を持つ狙い

第2章 対矢倉▲3八飛型:図は▲3八飛
「右四間で袖飛車(三間)とはこれいかに?」と思われるかもしれません。これはクリックミスでマス目がずれて・・・なはずもなく、3筋で一旦途中下車して▲3五歩から一歩持つことにより、将来の▲2五桂の後に▲3三歩と叩く筋を作ろうという作戦です。

後手の選択肢としては@△3三銀〜3一角〜4ニ角で待機する「やや消極型」、A@△3三銀〜3一角〜6四角で先手の攻めを牽制する「積極型」、B△2ニ角の居角+△5三銀に構える「徹底抗戦型」があります。

相居飛車における右四間飛車と言えば、多くの方は「矢倉急戦道場」のページで紹介しているような「後手番」での戦法とイメージすると思いますが、本書では全て先手番での局面を解説しています。

いきなりダメ出しで恐縮ですが、アマチュア将棋で採用率が高い後手番での定跡形を完全にスルーしてしまったのはどうなんでしょうか? 最近は「主導権を握れる」として若手プロ棋士を中心に再評価されており、今後ちょっとしたブームの再燃が予想されるなか、これはあまりにももったいない感じがします。

また、右四間を甘く見るとどうなるかを解説した第1章は、その狙い筋を明確にする意味でも、後手が平凡、悪く言うと無策なのはわかりますが、第2-3章でもココセな順が度々登場しています。

相居飛車の解説書ですので、先手番でこの戦法を指すだけでなく、実戦では後手番で受ける側になるということも当然あるわけです。そういった意味で、本書の実用度はやや落ちてしまうのが残念です。

ただし、上記の「矢倉急戦道場」ほか後手右四間の本を読んでいる人は、先手番での戦法の幅を広げる意味で本書はある程度は参考になるでしょう。個人的には、最近流行している一手損角換わりのオープニングから右四間飛車を採用し、右銀+左銀も▲7七銀〜6六銀と繰り出して、▲5五銀左とぶつける開戦する筋を紹介した第4章「対角換わり編」は面白く読めました。

なお、本サイトでは未レビューではありますが、対振り飛車における右四間飛車をテーマにした「先崎学:右四間飛車戦法―四間飛車破りの決定版!」も創元社から出ています。