矢倉道場 第5巻 森下システム

深浦新手で見直されて再び桧舞台へ
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評価:B
対象者:5級〜六段
発売日:2003年9月

「脇システム」などの定跡を網羅した「矢倉道場 第4巻 新3七銀」に続くシリーズ第5弾のテーマは「森下システム」です。90年代前半から半ばにかけて猛威を振るった同戦法ですが、△5二金型のスズメ刺しが天敵となり徐々に表舞台から消えていきました。

しかし、深浦王位が披露した▲4六銀〜5五歩のいわゆる「深浦新手」の登場により(下図参照)、再び森下システムが注目されるようになってきました。大熱戦が繰り広げられた2002年の第15期竜王戦七番勝負(羽生−阿部)での登場も記憶に新しいところです。

本書ではその深浦新手を含め、対スズメ刺しの攻防を中心として、森下システムの定跡を枝葉の変化に至るまで詳しく研究していきます。

全219ページの6章構成で、見開きに盤面図が6枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 基本図までの駒組み
第2章 ▲3七銀に△9三香型
第3章 ▲3七銀に△7三桂型
第4章 △9五歩に▲8八玉型
第5章 △7三桂に▲3八飛型
第6章 △7三桂に▲3五歩型

対佐藤康光戦で初披露

第2章 ▲3七銀に△9三香型 より:図は▲5五歩まで
△9二飛と後手がスズメ刺しを目指した手に対して▲5五歩としたのが97年に初登場した「深浦新手」です。以下△5五同歩▲同銀△9六歩▲同歩△同香▲同香に▲5三歩が眼目とも言える一手です(下図へ続きます)。

同角が最善手です

上図の変化からの続き:図は▲5三歩まで
焦点に利かした▲5三歩が先手の狙い。対して△同銀は角道が遮断されますので、▲9七香と打たれて飛車を捕獲されてしまいます。したがって、強く△5三同角と取るのが最善で、以下▲5四香△9八歩▲5三香成△同銀が本筋の変化となります。

従来は▲8八玉と入城したためにスズメ刺しの格好の標的となっていたのですが、玉を入城せずに右銀を素早く中央に繰り出して▲5五歩と突くことで森下システムも十分にスズメ刺しに対抗できるようになりました。

本書ではそのほか、▲7九玉のまま▲8八銀と引いて端攻めに備えてから銀冠を目指す→後手は端攻めをあきらめ△4三金左&△4二銀左として中央を厚くする変化や、▲8八玉と入城してから飛車先を伸ばし▲3七銀〜▲2六銀と繰り出す→後手は△8五桂〜△9七桂成から9筋を一気に攻める有名な定跡手順まで、幅広くカバーしてあります。

有段者レベルを対象として同戦法を解説した棋書は続編の「矢倉道場 第6巻 続・森下システム」を最後に久しく出版されていませんので、矢倉党の方は持っておいて損はない一冊といえるでしょう。