羽生の頭脳 6巻 最強矢倉・森下システム

後手の動きを見てから形を決められるのが特徴
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評価:B
対象者:10級〜初段
発売日:1993年4月

シリーズ前巻となる「羽生の頭脳 最強矢倉・後手急戦と3七銀戦法」では、△6二飛戦法と現代矢倉の主流である▲3七銀戦法を見ていきましたが、本書のテーマは森下システムです。

淡路八段や青野九段が指していたものを、無敵時代(六段時)の森下八段が体系化して勝ちまくったことから、このように命名されました。

森下システムは先手番でありながら、後手の布陣を見てから形を決めることが出来るという画期的な戦法で、具体的には▲5七銀から▲4六銀、▲4六歩から▲4七銀、▲5七銀から▲6六銀、さらに▲1七香から▲1八飛のスズメ刺しなど非常に高い対応力を誇っています。

全222ページの5章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りですが、第1章のみ▲3七銀戦法がテーマとなっています。

第1章 最新の▲3七銀戦法
第2章 森下システム対雀刺し
第3章 対△7三銀
第4章 対△6四角
第5章 森下システム最新型

森下システムの基本形

第4章 森下システム対△6四角より:図は▲2六歩まで
上図が一つの分岐点となります。後手としては△9四歩として、以下▲1六歩△7三銀▲5七銀△8四銀▲6五歩△4二角▲6六銀右△7三桂と進めるか、△7三角として、以下▲4六銀△2四銀▲1六歩△1四歩とする選択肢があります。

森下システムは玉を早く囲うので、比較的早い段階から「スズメ刺し」が有効ではないかとされきました。本書でも▲8八玉と入城した形に端攻めを仕掛ける形と、「▲8八玉と端攻めに近づくこともない」という考え方のもと、▲7九玉のまま▲8八銀〜7七桂とする形、さらに▲6九玉のまま▲4六銀と進出し5筋を攻める形の3パターンで対スズメ刺しの最新定跡(1993年当時)をわかりやすく解説しています。

他にも対△7三銀、△6四角を見ていきますが、結論から言うとプロの公式戦から一度森下システムを消し去ることになったのはスズメ刺しでした。「一度」と書いたのは、その後森下八段の弟弟子の深浦八段がスズメ刺しの攻めが来る前に5筋で先攻する新手を披露し、再び森下システムが表舞台に戻ってきたからです。

この辺りの話は定跡の入門レベルとは少し離れますが、有段者クラスの方は「矢倉道場 第5巻 森下システム」で「深浦新手」を巡る攻防をはじめ、森下システムの最新定跡が詳しく解説されていますので、参考にしてみたください。

また、深浦八段の「最前線物語(テーマ25)」、「最前線物語2(テーマ33)」、勝又六段の「最新戦法の話(P51〜)」をお持ちの方は、そちらを読んでいただくと森下システムの誕生から衰退、そして復活の流れが良くわかると思います。

級位者を対象に定跡の本筋だけを簡潔に解説していますので、矢倉初心者にはオススメです。前巻と併せて読むと矢倉の面白さなんかもわかると思います。

有段者クラスの方には、本格的に矢倉を系統立てて解説した森下八段の名著「現代矢倉の思想」、「現代矢倉の闘い」の2冊がレベル的にピッタリくるでしょう(但し、森下システムは解説されていません)。