森内俊之の戦いの絶対感覚

鉄板流といわれる受けのテクニックを解説
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評価:A
対象者:三段以上
発売日:2000年2月

トッププロの実戦譜から、序・中・終盤に置ける課題局面をそれぞれにテーマを設けて出題し、候補手の是非・局面の考え方・最善手へのプロセスを解説する『戦いの絶対感覚』シリーズ。

本書は鉄板流の受けで知られる森内俊之名人が、自らの実戦から42にわたる局面をピックアップしています。刊行当時は無冠だったということもあり、ほかにも『監修』という形で何冊かの棋書に関わってきた森内名人ですが、今の多忙な状況を考えると、これほど濃密な森内本はあとにも先にもこの一冊だけかもしれません。

構成は、問題図の下に簡単な形勢判断・指し方の指針が載せられており、翌ページに見開きで局面図が4枚&解説(3ページ)となっています。全222ページ。

第一章 序盤の絶対感覚(読み以前の感覚、とがめる意識ほか)
第二章 中盤の絶対感覚(定跡の裏表、新型と既成手順ほか)
第三章 終盤の絶対感覚(逆算方式 一手争いの基本ほか)

巻末にテーマとなった参考棋譜が36局分掲載。

テーマ図は▲9八香まで

ここは形成に優劣がつくほどの局面ではなさそうに思えますが、▲5七銀が森内名人曰く「甘い手」で、銀が浮いているこのタイミングで△2二飛車と回った手が機敏。

以下、▲9九玉△3二金▲8八銀△2四歩▲同歩△同飛▲2五歩△2二飛▲8六角△4五歩と進んで次の局面。

図は△4五歩まで

▲8六角と角成りを見せた手に対しての、△4五歩が好手で、▲5三角成には△4四角とぶつけ、馬が逃げたら△2六歩と蓋をして2筋を逆襲する狙いです。

これは本書の第一問目なのですが、普通なら何事もなく通り過ぎそうな序盤戦から、嗅覚を研ぎ澄ませているプロの技が堪能できます(因みに後手は大山康晴十五世名人です)。

第三章では穴熊特有の攻めの切らせ方や、形勢不利な局面で自玉を固めてミスを待つ指し方、嫌味をつけてプレッシャーを与える指し方などが解説されています。
『不利な局面から論理的に勝ちを導くことは不可能だ。』う〜ん、蓋し名言。

シリーズで最難関は間違いなく次巻の「羽生善治の戦いの絶対感覚」でしょう(枝葉の手の解説の中に、さらに括弧書きで手順が掲載されています)が、本書も相当の難易度です。

『耐える喜びを知ること』と書かれているように、しらみつぶしに受けていく問題がいくつかありますので、受けの好きな方は、この本からシリーズを読み始めるとよいでしょう。