高橋道雄:将棋 あなたの一手、プロならこう指す!

中・終盤の感覚を鍛えます
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評価:B
対象者:8級〜ニ段
発売日:2010年7月

中盤の仕掛け前後、勝敗の分かれ目となる終盤の重要局面を中心に、「プロ棋士はどういう判断基準でその局面を捉え、どんな指し手を選ぶのか」をテーマにした大局観の養成書です。

全206ページで、1題あたり盤面図を4枚掲載。著者である高橋九段の公式戦・研究会、アマチュアの将棋を題材として、99のテーマが用意されています。本のサイズは通常の棋書よりも一回り大きいA5判となっていますので、非常に読みやすいつくりになっています。

平凡な▲同歩はまともに後手のパンチを喰らいます

テーマ60 二枚銀は利き筋をダブらせて止めよ より:図は△5五歩まで
高橋九段の実戦からの出題です。平凡な▲同歩は△同銀左で後手の攻めに勢いがつき、以下▲5六歩は△6六銀左されてハードパンチをまともに喰らう展開となります。ここでは2枚の銀の連携を絶つ▲4五歩△同銀に▲5五歩が、三手一組の好手順(下図参照)となります。

平凡な▲同歩はまともに後手のパンチを喰らいます

上図からの続き:図は▲5五歩まで
2枚の銀が「銀ばさみ」になった状態ですが、以下@△5五同角は▲6六歩△5四銀右▲4六歩で銀得確定ですし、A実戦の手順である△6六歩▲同銀△同銀▲同金は先手が歩得の上、後手の4五の銀が遊んでいるため、先手断然よしとなります。

各テーマ図の横には、難易度(中級レベル★〜有段者レベル★★★)の表示と併せて、「玉側の桂跳ねは、堅さ三割減」「成り駒は、引いて使うのが上級者」など、格言を兼ねたタイトルが付けられています。

問題→解答というありきたりな構成ではなく、アマが指しそうな手のどこが駄目なのかを盤面図を交えて紹介し、その後でプロの大局観に基づいた考え方と正解手順を解説するというスタイルになっています。手順としては以下のようになります。

1.【テーマ図】で、その将棋の出典と簡単な形勢判断を紹介
2.【失敗図】、【参考図】で、アマが選びそうな指し手のどこが駄目なのかを解説
3.正解手順に至るまでの着目点と考え方を、【失敗図】と比較しながらレクチャー
4.正解手順から指し手を進めた結果図を4枚目の盤面図で紹介

単なる問題集ではなく、中・終盤を中心とした実戦スタイルの講座ですので、何度も繰り返し読むことにより、プロの考え方を吸収できるようになっています。

終盤を扱った内容は高橋九段の実戦からピックアップしたものが多いですが、自陣の玉形は比較的安定したものがほどんどですので、複雑な手順を読むことに悪戦苦闘し、テーマが消化しきれないということはありません。

また、テーマは全て見開きで完結するスタイルとなっていますので、自身の棋力ではやや難しいと思われるテーマでも、ページを捲ってはまた戻るという作業は全く必要ありません。ただし、全テーマに必ずしも正着が用意されているわけではなく、テーマ図の局面自体が既に形勢のバランスが崩れており、その一手前の段階でなんとかしなければならなかったという意地悪(?)なものも。

本書のタイトルから普通の「次の一手」形式の本と判断して、スルーした方も少なくないと思います。僕も「これは地雷(ハズレ本)ではないか」と敬遠していたのですが、筋がいい・悪い、大局観といった抽象的で言語化しにくいテーマを平易な文章と盤面図でさらりとまとめたなかなかの良書でした。

難易度的には「絶対感覚」シリーズをグッと抑えた感じになっていますので、そちらへステップアップする前の入門書としても適しているでしょう。