羽生善治:上達するヒント

伝えにくい「感覚」を上手く言語化しています
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評価:A
対象者:10級〜初段
発売日:2005年1月

プロ棋士や指導棋士、愛棋家、そしてインターネット(主に倶楽部24)による地道が普及活動が実を結び、徐々にではありますが、確実に世界へ広がりを見せている日本の「将棋」。上海出身の少年が奨励会試験に合格したにというニュースはその象徴だと思います。

本書はそんな外国の方を対象に「将棋の基本的な考え方・感覚」をまとめた「HABU'S WORDS」を日本語版として逆輸入して、加筆したものです。
原著が外国の将棋愛好家に向けて書かれたものですので、ドイツ・フランス・オランダ・ブラジルほか各国のアマチュア棋士の将棋を題材としています。

著者は第一人者の羽生二冠。棋界初となる七冠達成をはじめ、公式戦で打ち立てた数々の偉業は言うまでもなく、普及面でも忙しい合間を縫って自腹で海外へ出かけるなど、精力的に活動しておられます。

全206ページの13章構成で、見開きに最大で4枚の盤面図が配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 基本方針と形勢判断―四つの判断基準
第2章 構想について―その方向性は正しいか
第3章 歩の下に駒を進める―駒の力を引き出すには
第4章 駒がぶつかったとき―損得のバランスを考える
第5章 位取りについて―5段目の歩の大きな力
第6章 主戦場について―戦う場所の選択
第7章 王の安全度について―囲いの強さ、囲うタイミング
第8章 さばきについて―量より質のテクニック
第9章 厚みについて―戦わずして勝つ方法
第10章 スピードについて―将棋の質が変わる
第11章 攻めの継続―指し切りの局面を作らない
第12章 進展性について―自分の進展性と相手の進展性
第13章 陣形について―必ず崩されるという覚悟

将棋の理想は、攻守のバランスを取れた陣形を築く→飛・角・銀・桂(香)という理想の攻めを実現→相手の反撃をキッチリ受け止め→囲いを崩して華麗に寄せきる…といった感じになりますが、相手がいるゲームである以上、そんなに上手くことが運ぶことはほとんどありません。

むしろ、攻めるタイミングや方向性、形勢判断、終盤のスピード計算等のいずれかを誤ったため、自分が思い描いていた展開と乖離してしまっていることの方が多いと思います。

大事なのはそこからどうやって形勢を盛り返すか、あるいはそもそもそういった局面に陥らないようにするためには、どういった考え方をもとに指し手を進めるべきだったのか、ということです。

羽生二冠は『(従来の将棋の本は)ゴルフに例えるなら、ドライバーショットについては書かれているが、バンカーショットは無視されている感じです。将棋はバンカーの多いゲームです。(中略)基本の考え方・方向性を知っていれば、バンカーから抜け出すリカバリーショットは打ちやすくなるはずです。』と述べておられます。

本書ではそんな将棋の基本的な考え方を上記の目次の13の項目に分けて解説しています。重要なポイントは「これが歩の上に駒を進める欠点です。つまり、味方の歩が自分の駒の活動性を奪ってしまうのです。」といったように太字で強調しているので、視覚的にも非常に分かりやすいです。

書かれている内容は、有段者レベルの方なら当然身に付けていて、実戦で特に意識しなくてもその指針をもとに指し手を選んでいるはずです。しかし、本人は頭のなかでキチンと理解していても、それを言語化してわかりやすく説明するのは思っている以上に難しい作業です。

そこをいとも簡単に誰にでも理解できる平易な文章でまとめているのが羽生二冠の凄いところ。終盤では何故「駒得よりもスピード」なのか? 具体的に「さばき」とは何なのか? 駒がぶつかったときの判断の仕方はどうするのか? などモヤモヤしている点がスッキリすること間違いないでしょう。

これからどんどんレベルアップしたいと考えている初心者から上級者はもちろん、サークルや部活動で将棋を人に教える機会のある方にもお勧めです。