阿久津主税:必ず役立つプロの常識

中・終盤の思考・戦い方を伝授します
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評価:B
対象者:5級〜二段
発売日:2009年12月

渡辺竜王を筆頭格に、山崎七段や好敵手"ハッシー"こと橋本七段らと共に「羽生世代」を追走する阿久津主税(あくつ ちから)七段。2008年の朝日オープンでは念願の棋戦初優勝、今年はその実力だけでなく端正なマスクも買われて(?)NHK将棋講座の講師を担当するなど、盤上・盤外で広く活躍されています。

本書はそんな阿久津七段が、「週刊将棋」で担当していた講座を基にプロの思考をわかりやすく解説して、中・終盤における戦い方のコツ&丸秘テクニックを1冊にまとめたものです。

全224ページの4章構成となっており、テーマ図を基に、講師の阿久津七段と聞き手(「週刊将棋」の初段レベルの編集部員)との対話形式で読み進めていきます。目次は以下の通りです。

第1章 これがプロの常識
第2章 囲いの特性
第3章 実戦次の一手
第3章 急所の一手を考えよう
第4章 実戦編&自戦記(対広瀬・中座・深浦・久保の計4局)

大山十五世名人の得意形です

第1章 これがプロの常識 「美濃の裏手筋、玉底の金」より
先手の高美濃は手付かずですが、後手の一段飛車&3九の地点を睨む角が脅威となっています。@▲4八金引は△同角成▲同金に△3九銀ですし、A▲5七金打もやはり△同角成▲同金△4八金、B▲4八金打には△5八金があります。

この形では▲2九金と玉底に金を打つ手が覚えておいて損のない一手で、大山十五世名人が得意とされていた形です。本書ではこの▲2九金のように自玉に駒の利きを入れる手を「玉にヒモを付ける」として、別テーマで改めて解説されています。

右玉以外にも応用の利く手順です

第1章 これがプロの常識 「香を残し端攻めを逆用」より:図は△9七歩まで
こちらは▲阿久津七段と△武市七段の実戦を題材としたテーマです。
平凡な▲同香では△8五桂▲8六銀に△4六歩が急所の一手で、▲同銀(同歩や同角は△4五桂が飛車・銀両取り)で6八の角の働きを無くしてから、△9七桂成〜△9三香打から清算〜△9一飛の活用を狙われて、思わしくありません。

この局面では▲8六銀と上がり△9六香に▲9七銀とするのが「知る人ぞ知る(本文より)」一手となります。対する△9七同香成に▲同香とすれば、駒損ながら香車を盤上に残したことにより、今度は▲9二香成などの逆襲+▲2三香からの挟撃を狙うことができます。

端攻めを受けた際に最後に香車を残してカウンターを狙う筋は、対右玉だけではなく、対振り飛車における居飛車穴熊などでも応用が利きますよね。

代表的なテーマを2つ挙げてみましたが、その他にも銀冠の9三の地点(別名:天空城)を生かして一手勝ちを狙う、仕掛けの際の歩の突き捨ての順番、玉頭の突き捨てのタイミング、終盤での距離感、急所の駒の見極め方、プロなら負けても指せない手(=一貫性の無い手)など、幅広いテーマが全19題用意されています。

テーマ図は上図のように部分図か、あるいは阿久津七段を含むプロの実戦からピックアップしたものの2タイプに分類されます。解説の補足としてさらに別の実戦からの盤面図が追加されているケースもあります。

ただし、これら本編と言える内容は全体の半分を占める100ページ程度です。第3章の「実戦次の一手」は学んだ内容とリンクする形となっており解説も詳しいのですが、第2章と第4章はあくまでも「継ぎ足した」感が強いです。個人差はあると思いますが、本書を手に取る方の多くは第1章の内容が一番読みたいはずです。

例えば、パッと考えただけでも、「隙あらば穴熊」に代表される第二次駒組み、大駒を切るタイミング、相振り飛車の端歩を受ける・受けないの判断基準、駒を犠牲に手番を握る…など第1章で「読んでみたい!」と思う内容が色々出てきます。この辺がもっと充実しれいればなぁと思いました。

講座の内容は特定の局面でないと駄目というものではなく、幅広く応用の利く普遍的なものばかりです。高段者の方はいずれも知っていることばかりだと思いますが、級位者〜二段くらいの方なら読んでおいて損はないでしょう。

なお、現在放送中のNHK将棋講座「阿久津主税の中盤感覚をみがこう」も本書のような内容を期待していたのですが、4月の放送を見る限り、定跡手順の解説が中心のようでちょっと残念ですね。