渡辺明:四間飛車破り 居飛車穴熊編

松尾流に組んでしまえば勝率八割
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評価:S
対象者:5級〜五段
発売日:2005年6月

前作「四間飛車破り 急戦編」では4五歩早仕掛け、4六銀左急戦、棒銀の居飛車急戦策の定跡が解説されていましたが、本書のテーマは持久戦策の代表・居飛車穴熊における定跡とその戦い方です。

まず、第1章で居飛車側が4枚穴熊の理想形に組めた場合の仕掛けについて解説しています。振り飛車の対策が進化している現代将棋では、ここまで組めることはめったにありませんが、居飛車穴熊の狙いとその破壊力を知るうえでは、居飛車党はもちろん振り飛車党の方も読んでおいて損はありません。

続く第2章では△4五歩・3五歩から石田流を目指す形とそれを阻止する居飛車側との攻防を解説。メインテーマに入る前のこの2つの章の構成は、佐藤康光棋聖の著書「最強居飛車穴熊マニュアル」と同じ内容になっています。

本書のメインとなっている穴熊は▲5七銀を6八〜7九銀とするいわゆる「松尾流穴熊」と▲5七銀・6七金・7九(7八)金のオーソドックスなタイプです。四間飛車側が上記の4枚穴熊を警戒して、早めに△4五歩と突くため、▲6六歩と角道を止め、その6筋を守るために▲6七金を強要されてますので、ここからどう戦うかがポイント。

なお、対居飛車穴熊では「藤井システム」が有名ですが、本書では藤井システムについては触れていません。一冊にまとめるのは変化が膨大すぎることと、形によっては居飛車側が受け一辺倒になる(居飛車が悪いというわけではない)ので、居飛車穴熊の戦い方を解説するには適していないと判断したからではないでしょうか。

全246ページ、見開きに局面図が4枚の5章構成です。各章の頭に「渡辺明の結論」として、その章でテーマとなっている局面図を4枚掲載し、結論を先に記しています。

ネット対局でも頻出の有名な局面

第3章 力の4四銀型 松尾流vs△5五歩より:図は△5五歩まで
以下▲同歩△4六歩▲同歩△5五銀▲2四歩△同歩▲3五歩△4六飛▲3四歩△4四角▲2四飛△2二歩▲2五飛とネット将棋でも頻出の手順となります。

第1章 無敵の四枚穴熊
(テーマ1)最強穴熊 (2)ビッグ4へ (3)後手、銀を使う

第2章 動く振り飛車
(4)四枚穴熊封じ (2)正しい穴熊への組み方 (6)先に▲6六歩 (7)別の作戦 (8)向かい飛車からの急戦

第3章 力の4四銀型
(9)プロの穴熊へ (10)松尾流の戦い (11)松尾流vs△5三銀 (12)松尾流vs△5五歩 (13)松尾流vs9筋突き越し型 (14)6八角型へ (15)素直に銀を取る (16)奇抜な手 (17)2六角型へ (18)一手早く備える

第4章 技の3二銀型
(19)流行の3二銀型 (20)△5四銀vs▲2六角 (21)3七角型 (22)松尾流を見せる (23)本筋へ (24)銀の繰り替え (25)端歩の意味 (26)松尾流をめぐる戦い

第5章 守りの5四銀型
(27)5四銀型へ (28)玉の位置 (29)上部に厚い構え (30)持久戦の▲5九角

「松尾流穴熊に組めたら勝率8割」と本書にも解説されているように、▲7九銀まで移動させれば居飛車側は大満足。「端攻めで△9七桂成▲同銀△9二香と来られても▲8八銀上で端を補強できる」「▲6八角と引いた形が▲2四を狙っており攻め筋に困らない」などのメリットも図面入りで解説されています。

本書には書かれていませんが、自分の体験から言うと金銀を剥がす△7九角成が、松尾流穴熊だと渡す駒が金ではなく銀という点も大きいと思います。島朗八段が言うところの「金を自陣に残す安心感」ってやつですね。

松尾穴熊完成後の仕掛け方も2例ほど詳しく解説していますが、いずれも先手よしとされています。となると、四間飛車側としては松尾流穴熊が完成する前に攻撃を開始するのが必定となります。上の盤面図はその代表例で、▲6八銀と完成一歩手前で△5五歩と仕掛けます。

この本が出版されたちょうどこの頃は、この形が若手プロを中心に流行しており、研究の真っ只中で結論は出ていませんでした。渡辺竜王の当時の結論は「居飛車もって不満はない」としながらも「形勢は不明」としています。

これまでの浅川書房の「最強将棋21」シリーズと同様に内容は高度だけども、渡辺竜王の文章力のたまものか、非常に読みやすいです。

高段者も対象とした居飛車穴熊本は久しく出ていなかったので、居飛車党の方にはバイブルとして手元に置いておきたい一冊。前作「四間飛車破り 急戦編」とあわせて読めば、戦法の幅がグッと広がると思います。

本シリーズが少し難しいと感じた方は渡辺竜王が講師を務めた「NHK将棋講座」の内容を単行本化した「渡辺明の居飛車対振り飛車 Vol.2 四間飛車編」がオススメです。