定跡道場 先手四間VS左6四銀(新・東大将棋ブックス)

形によっては詰みまで研究されています
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評価:A
対象者:1級〜六段
発売日:2009年8月

本書は先日レビューした「定跡道場 先手四間VS早仕掛け」に続く、「定跡道場 四間飛車編」の第二弾です。「準急戦」という比較的緩やかな展開が一部にあるものの、『これぞ四間飛車 VS 居飛車急戦の醍醐味!』とも言える激しい変化が多く登場する「▲四間飛車 VS △居飛車左△6四銀戦法」がテーマとなっています。

全222ページの8章構成で、見開きに盤面図が4〜6枚配置されています。目次は以下の通りです。

  • 第1章 左6四銀の基本手順
  • 第2章 △7二飛に▲7四歩の変化
  • 第3章 △7二飛に▲7三歩の変化
  • 第4章 △7二飛に▲6七金の変化
  • 第5章 △7二飛に▲8八角の変化
  • 第6章 ▲7六同銀に△7二飛の変化
  • 第7章 ▲7六同銀に△7五歩の変化
  • 第8章 ▲7八飛に△4二金上の変化

第1章 第1節 左6四銀の基本手順より:図は△7二飛まで
仕掛けた後の大きな分岐点となる局面です。本書では▲6五歩・▲7四歩・▲7三歩・▲6七金・▲8八角の候補手を解説しています。

第1章 第4節 ▲2二銀に△6一歩の変化より:図は△6一歩まで
▲2二銀に対して、△同玉(別項で解説)に代えて△6一歩と中合いした局面です。▲同飛成なら△5一金寄と龍に当てて手番が入れ替わります。

上図では▲5九金引が△5八馬を消しておく最善手です。以下△8九飛成は▲2一銀不成△同玉▲3三桂が厳しい。そこで▲5九金引には△4九馬▲2一銀不成△同玉▲4九金△5一金寄りと進みます。

この▲2二銀前後には双方に変化手順が無数にあり、どれも難解なものばかりです。本書のハイライトとも言える部分ですので、図を見て「お、この局面か」とピンと来た定跡通の方は大変勉強となるでしょう。

このシリーズは四間飛車が先手という共通テーマがあるので、前巻と同じく後手の居飛車は△4二金上とせずに△4一金型で仕掛けるメリット・デメリットが、そして先手の四間飛車は▲4六歩と指した手がどう影響するかがポイントとなります。

居飛車の△4一金型のメリット・デメリットは前巻のレビューでの箇条書きと一部重複するので、そちらを参考にして頂きたいのですが、△左6四銀の仕掛けでは△7二飛と寄る変化が出てきます。本書では△4二金上の省略を生かして、△5二金を△4二金寄として将来の▲6一銀による飛車・金の両取りを避ける形、△5一銀として飛車打ちに予め備える形も新研究として登場(第4章 第1節)しています。

一方、先手四間飛車の立場では、▲4六歩を突くと将来の▲4六角で飛車のコビンを狙う常套手段が無くなるというデメリットがあります。ただ、もう一手▲4五歩と位を取ってしまえば▲4六角打が狙えますし、準急戦の落ち着いた流れになると▲5七金から▲4五歩と突き越して、上部を厚くしながら▲3七角の展開を含みにする指し方も可能(第7章 第2節)になるというメリットもあります。

先後の入れ替わりによる違いを比較したい方は「四間飛車道場 第3巻 左4六銀」や「四間飛車を指しこなす本 Vol.2」・「四間飛車を指しこなす本 Vol.3」と併せて読めばわかりやすいでしょう。

仕掛け前後の本筋から細やかな変化手順の解説はもちろん、終盤で双方の玉がほぼ丸裸になってからも「詰めろ逃れの詰めろ」「詰めろ逃れの必死」「空間を埋める犠打」などが登場するギリギリの局面での攻防まで研究されており、特に第1章に関しては難易度は前巻よりも上です。

著者である所司七段の結論は『仕掛けた後の分かれは居飛車厳しい』とのことですが、形次第では詰みまで研究されていますので生粋の居飛車急戦党でも後手番で挑戦する価値は十分にあります。もちろん、高段を目指す四間飛車党の方のレベルアップにも役立つと思います。