大内延介:史上最強の穴熊 Vol.2 持久戦編

対銀冠と相穴熊での指し方を中心に解説
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評価:A
対象者:8級〜二段
発売日:1994年11月

前巻「史上最強の穴熊 急戦編」では、斜め棒銀・棒銀・△7二飛戦法に対する定跡手順と大内九段の実戦歩を見ていきましたが、本書は銀冠や居飛車穴熊などの持久戦がテーマとなっています。

基本的な構成は急戦編と同じですが、定跡解説後のチャート図に代えて、「これだけは覚えたい・持久戦のポイント」として、各戦形の基本図の図面と四間穴熊側からの狙い筋が解説されています。

全223ページ、定跡解説と自戦記の二部構成。見開きに盤面図が4枚となっています。目次は以下の通りです。

第1章:対銀冠、対天守閣美濃、対相穴熊、対5筋位取り、対玉頭位取り
第2章:実戦編:対東六段、中田(宏)五段、九段、森九段、石田九段

相穴熊戦での頻出図

第1章 相穴熊より:図は▲4五歩まで
△4五同歩▲3三角成△同金▲6四歩△同歩▲6三角△8二飛▲4五銀で先手よし。本書では▲3三角成に△同桂以下の手順も掲載。

最初は個人的には最も手ごわいと思っている対銀冠における定跡から解説されています。実体験からいうと、四間穴熊側が▲6五歩と角道を通す手に対して、△4三金右から居飛車側が囲いを優先させた場合は、先手作戦勝ちになりやすいですね。▲6六銀〜5六歩〜5五歩を見せて、△6二飛を強要させれば完全に穴熊ペース(略して穴ペー…って言いませんか?)。

この辺はNHK将棋講座をまとめた「阿部隆の大局観 良い手悪い手普通の手」のレビューページに、銀冠を指す上での阿部八段のアドバイスを記しておきましたので、居飛車党の方は参考にしてみてください。本書では上記のような理想形とそれ以降の指し方、▲7八飛と振りなおして石田流を目指す手順、居飛車側が銀冠から穴熊を目指してきたときに固め得を許さない▲3八飛以下の攻防について解説されています。

ただし、この銀冠の節は、四間穴熊がよくなる順がほとんどで、居飛車最有力手である△4五歩から角交換を挑む手順があまり触れらていないのが残念です。この手順は四間穴熊の左金(デフォルトで▲4七金)の位置や動き、▲5六歩の有無などによる似て非なる局面がたくさん出てきて、形勢も異なってきます。
この辺は「四間飛車道場 第8巻 銀冠vs穴熊」が非常に詳しいので、足りない部分は補うとよいでしょう。

対天守閣美濃の節は、△6四銀から角頭を狙う筋と△4四銀から四枚美濃を狙う筋が解説されています。手強いのは後者のほうで、▲4五歩と突いて理想形の阻止を目指し、△4四歩からの反発を強要させておいて、▲同歩△5三金▲5六銀△4四金▲4五歩と位を取ってしまう有力手順を詳しくみていきます。▲4五歩とそれ以外の候補手は「四間飛車道場 第9巻 持久戦vs穴熊」でも深く掘り下げられています。

相穴熊の節は、▲5六銀と居飛車側の動きを早期に牽制、△4四歩〜4三金の形(あまり堅くない)を余儀なくさせておいて、▲4八飛〜6五歩〜4五歩と積極的に攻めていく形を解説しています。△7二飛と薄くなった角頭を狙わせておいて、相手の飛車を戦場となる4筋に近づけさせる点と▲6四歩を入れるタイミング(△同歩は角交換後の▲6三角が飛車に当たるし、▲4五飛から▲8五飛の回り込みが可能となる)が非常に勉強になり、今でも使わせてもらっています。この節が一番役に立ちました。

ただし、この節の難点は四間穴熊の左金が▲3八金か▲4九金となっている点です。この形は堅さだけなら問題ないですが、△2四角からガラ空きの5七の地点を狙われるのがネックのため、現在は▲5八金が主流です。この辺の最新定跡の手順は「四間飛車道場 第7巻 相穴熊」が参考になります。

最後は5筋位取りと玉頭位取りです。この二つの戦法に対する定跡が詳しく載っている穴熊本は、90年代以降ではこの一冊だけのはずですので貴重です。

穴熊の陣形が低いから位を張られても響きが薄い、と高をくくって漫然と駒組みを進めていると、左辺でも手が出せなくなりド作戦負けに陥ります。
ポイントは位を目標に早めに反発することです。5筋位取りには▲4八飛、玉頭位取りには▲3八飛と展開し強く戦う手順が本書では解説されています。

持久戦のほとんどがまとめられて、なおかつ類書が見当たらない本書のほうが、前作よりも優れていると思います。両方読めば、一通りの定跡がマスターできますので、穴熊教信者の方は頑張りましょう!(但し、絶版が痛いです)

最後に本書の中から「穴熊党総裁が語る対持久戦五箇条」の部分を掲載しておきます。覚えておけば、皆さんの穴熊ライフに一役買う…はず。

一.理想形を阻止しろ
持久戦は駒組みが勝負になる。簡単に相手の理想形を許してはいけない。例えば居飛車側が四枚美濃に囲おうとした場合は▲4五歩が急所の一手。

一.好機に角筋を通せ
銀冠に対して▲6五歩〜▲6六銀の形に組みたいが、▲6五歩と角筋を通すタイミングが問題。早すぎると角交換を迫られて受けに窮する。

一.相穴熊は序盤が肝心
相穴熊はがっちり囲いあって終盤勝負という印象が強いが、実は序盤戦がポイントだ。積極的に動いて作戦勝ちを勝ち取れ。

一.位をめがけて反撃
位取り戦法に対しては、穴熊の低さと遠さを生かして強気に戦えばよい。位は格好の攻撃目標と認識せよ。

一.飛車を固定するな
持久戦では飛車が遊んでいては勝てない。6筋に固定しているようでは駄目だ。4筋や3筋に回って機敏に攻め込め。