大内延介:史上最強の穴熊 Vol.1 急戦編

斜め棒銀をはじめとする急戦への定跡手順を解説
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評価:A
対象者:8級〜二段
発売日:1994年10月

穴熊党総裁の大内延介九段による四間穴熊の定跡ガイドブックです。前半を定跡、後半を自戦記というお決まりの構成でありながらも、急戦編と持久戦編の2冊に分かれているために、「自戦記のページ減らして、定跡をもう少し詳しくしてくれ」という不満もありません。(2冊も絶版なのが残念です)

定跡解説の締めのページには、基本図の図面とそれまでの手順を再掲載。
分岐点となる局面の盤面図もチャート図とともに簡潔にまとめてあり、今までの大内九段の穴熊本とは違い、コンパクトかつ本格的な内容。前書きの「この本は私の穴熊の集大成と思っている」の言葉に違わぬ良書となっています。
本書の出来のよさに「これ絶対、弟子(鈴木大介・現八段)に書かせてるよ」とは、約10年前の酒席での某強豪の言葉ですが、なんて失礼な(笑)

全222ページ、定跡解説と自戦記の二部構成。見開きに盤面図が4枚となっています。目次は以下の通りです。

序章:穴熊をさす前に
第1章:対斜め棒銀、対5三銀型棒銀、対4二銀型棒銀、対7二飛戦法
第2章:実戦編:対郷田王位、石田九段、森下七段、加藤(一)九段

斜め棒銀の基本図

第1章 対斜め棒銀より:図は▲3九金まで
ここから△7五歩▲同歩△6四銀▲7四歩△7五銀▲6五歩が定跡手順です。本書ではここから△5五歩・4四歩・7七角成の3つの選択肢を解説しています。

最初の斜め棒銀はどの穴熊本でもまず最初に載せるお馴染みの形です。弟子の鈴木八段の著書「鈴木流四間穴熊」では、居飛車が後手にもかかわらず△1四歩(斜め棒銀なら不急の一手)が指してあるという、非常に四間穴熊側に有利な状況下で解説がなされていましたが、本書ではそんなことはありません。機を見て▲3五歩から▲3八飛と玉頭に狙いをつけるこの形の常套手段も解説してあります。

また、第1章の最終節となる対7二飛戦法は近年の穴熊本では紹介されていない貴重な部分です。角頭を守るために思わず指してしまいがちな▲6七銀の危険性と最善手▲3九金の違いを見ていきます。

高段者には物足りないと思いますが、二段程度くらいまでならば対穴熊の急戦は基本的にこの一冊で十分です。さらに詳しく、四間穴熊対急戦を掘り下げて勉強するなら「四間飛車道場 第10巻 急戦vs穴熊」がオススメ…というか、この一冊しか選択肢がないのが現状です。

後半の自戦記は郷田王位や森下七段(段位はいずれも当時)に大内穴熊が炸裂の自慢譜(?)となっています。相手をタイトルや段位ではなく、郷田君、森下君と「君」づけで呼ぶところが貫禄ですね。

ただし、対郷田王位戦の内容は、本書では全く触れられていない5筋位取り中飛車穴熊というのがいただけない。でも、やっぱり飛ぶ鳥を落とす勢いの郷田王位に勝ったところだけは読者に見せたかったということでしょうか(笑)

対持久戦は続編となる「史上最強の穴熊 持久戦編」で解説されています。
最後に本書の中から「穴熊党総裁が語る対急戦五箇条」の部分を掲載しておきます。勤め先の社訓を忘れても、こっちはキチンと覚えておきましょう。

一.戦いを恐れるな
相手が急戦を狙ってきたとき、闇雲に戦いを恐れてはならない。ジリ貧負けを選ぶ人には穴熊を指す資格はない。

一.左の金が受けの要
対急戦には左の金が受けの要となる。▲5八金〜▲4八金寄と固めるよりも▲6八金と立った方が受けに強い場合が多い。

一.引き付けてから反撃
反撃はタイミングが難しい。相手の攻め駒(特に飛車と銀)を十分に引き付けてから大捌きを図るのがコツだ。

一.相手の駒は重くしろ
相手の攻め駒を軽い形で捌かせてはならない。中でも右銀を無条件に五段目に出させてはいけない。重い攻めなら少々の駒損は構わない。

一.味方の攻め駒は軽くしろ
味方の攻め駒(特に飛車角)が自陣で眠っているようではいけない。左翼は破らせても大駒を捌く感覚が必要だ。