櫛田陽一:世紀末四間飛車 急戦之巻

遅刻してもNHK杯将棋トーナメントに優勝した櫛田六段
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評価:A
対象者:5級〜四段
発売日:1990年12月

寝坊でNHK杯将棋トーナメントの対局に遅刻したにもかかわらず、優勝した伝説を持つ"クッシー"こと櫛田六段の代表著書です。

眩いばかりのゴールド基調の表装にモクモクと紫煙をくゆらせる男性が映りこんでいるという酷い表紙(そこまで言うか)ですが、当時の四間飛車党にはバイブルとされていた名著です。

全303ページというボリューム、そして現在の棋書よりも一回り大きいサイズのこともあり、重量感が結構あります。見開きに盤面図が6枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1部 講座編
斜め棒銀戦法、4五歩早仕掛け戦法、棒銀、急戦中央位取り、4六銀戦法、腰掛銀
第2部 次の一手編
次の一手問題(25問)
第3部 自戦記編
自戦記(対中原十六世名人、森内名人、森下九段など計10局を解説)

4五歩早仕掛け戦法より:図は▲2三角まで
ここで△3五歩と桂頭を攻めるのが世紀末流。以下、▲3四角成△3六歩▲3三馬△3七歩成▲同銀△4五飛▲4六銀右△4一飛で後手指せるという見解です。△3五歩に▲4七銀なら△2五桂▲同桂△同歩▲3四角成に△7五歩と玉頭の急所に狙いを定めます。

発売から20年近く経っていますので、定跡の新旧はともかくとして、内容は非常しっかりしています。特に1ページあたりに進行する指し手が2〜7手と比較的緩やかにも関わらず、盤面図が3枚ありますので、ビジュアル的に非常に見やすい。

また前述のように、本のサイズが大きいので盤面図を3枚配置しても、解説量が減ったり文字が小さくなったりすることはありません。

居飛車側の戦法も通常の急戦策に加え、近年アマチュアで流行している右四間飛車(本書では腰掛銀と表記)も解説されている点がうれしいところです。

ただし、四間飛車側の陣形がオーソドックスな△5四銀型なのでベストとは言えません。現在の最新最強の陣形は藤井九段の「四間飛車の急所 Vol.1」で紹介されている△3一銀・2二角の形ですので、ご存じない方はそちらの226ページを参考にしてみてください。

第二部の「次の一手」問題も四間飛車の捌きに関する良問が揃っており、ページ稼ぎの感もなく参考になりました。

乗りに乗っている絶頂期の著書ですので筆力も絶好調で『世紀末四間飛車の次なる生贄(原文は何故かカタカナでイケニエ 笑)は〜』、『私は(二枚銀戦法)をそれほど優秀とは思っていない。むしろこの戦法で来てくれるとうれしくなってしまう。』などと、勢いが違います。

ただ『△4三銀と早めに上がり、△5二金左も早く上がってしまうのが櫛田流』と本人が述べておられるように、現在の感覚からすれば少し早めに形を決めすぎている感があります。

四間飛車の選択肢としては、△3二銀の形で保留して△5四歩や△6四歩、そして△1二香も十分に考えられますが(むしろ現在はこちらが多い)、これらは一切掲載されていませんので注意が必要です。

続編となる「世紀末四間飛車 持久戦之巻」では、天敵である左美濃と居飛車穴熊に対する世紀末流の指し方を解説していきます。

また、対急戦の先手四間飛車の解説は、本書の発売から4年後の1994年に出版された「世紀末四間飛車 先手必勝編」を参考にしてみてください。