木村一基の急戦・四間飛車破り

棒銀から鷺宮定跡までを幅広くカバー
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評価:A
対象者:5級〜四段
発売日:2005年3月

木村一基八段が講師を務めて好評だった「NHK将棋講座(2002年4月〜9月)」のテキストを、加筆修正したものです。出版までえらく時間がかかりましたねぇ。

テレビ対局で負けた後も視聴者を意識してか、わかりやすい口調で感想戦をされるその姿に好感を持つ方も多いと思います。ヒョロヒョロっとした前髪が汗で額にピタッと張り付いている姿が、若い頃の大山十五世名人を彷彿とさせます。

本書のテーマとなっているのは対四間飛車における居飛車急戦で、棒銀、斜め棒銀、▲4五歩戦法、そして鷺宮定跡の基本定跡と終盤の寄せ方までを木村八段の実戦を元に解説していきます。

全222ページの4章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。巻末には参考棋譜が簡単な注釈つきで6局ほど掲載されていますので、復習の際に盤に並べてみてください。

第1章 棒銀戦法
威力抜群の▲3五同銀 / 攻めの急所▲4五歩 / 巧みな繰り替え▲3七銀…ほか
第2章 ナナメ棒銀戦法
強力なアシスト▲3八飛 / 強く前進▲3五銀 / 効果絶大▲2二角…ほか
第3章 ▲4五歩戦法
急所の好着▲8六桂 / 渋い好手▲7八玉 / 紫電一閃▲9五歩…ほか
第4章 鷺宮定跡
絶好の拠点▲3四歩 / 柔軟な対応▲6六歩 / 臨機応変▲2八飛…ほか

第3章 ▲4五歩戦法より:図は▲4五歩まで
以下、△同銀▲同桂△8八角成▲同玉△4五飛と進みますが、ここで▲2三角と打つと居飛車は何故駄目なのか、▲7八玉(正着)に対する後手の6つの候補手をそれぞれ見ていきます。

我々アマチュアに人気の▲4五歩戦法は特に詳しく、1.△7四歩型・△2四同歩〜△5三銀、2.△7四歩型・△2四同歩〜△4五同銀、3.△7四歩型・△2四同角、4.△6三金型・△2四同角の基本4パターンに加えて、△5四銀からの玉頭銀もカバーしているところが高ポイント。

解説は渡辺竜王と同様に明快で、「断然先手良し」「大優勢」「はやくも先手良し」というフレーズが特にお気に入りの様子。正しい手順だけでなく、急戦が失敗するケースも具体例も挙げて見ていきますので、疑問点もひとつひとつ潰していけます。

舟囲いは指し慣れてくると、その柔軟性と意外な固さを武器にすることが出来ますが、四間飛車の美濃囲いと比べるとやはり見劣りしてしまいます。居飛車穴熊のように大駒をバッサリと切って、金銀を放り込むスタイルの寄せですと、自玉への反動も強すぎてそれまでのリードも一気に吹き飛びかねません。

本書は木村八段の実戦を元にしていますので、定跡による仕掛けから優勢になるまでの手順だけでなく、いかに上手く美濃囲いを崩し、相手玉を寄せるかまでもしっかりと解説されています。

急戦では終盤のクライマックスで自玉が手付かずということはほとんどないはずです。自玉の危険度を見極めた上で、どう寄せるのかをこの講座で学びましょう。

ただ、NHK将棋シリーズに共通していることですが、「〜図からの指し手」という形で盤面図を掲載して変化手順を追っていくので、候補手が複数ある場合、「〜図」を見るためにはページを戻さなければならない点が残念です。

また、実際の進行図は「1〜9図」のように数字で、変化手順における参考図は「A〜D図」のようにアルファベットで記載されていますので、その辺りも慣れるまではストレスを感じると思います。

主な急戦定跡と実戦形における美濃囲いの寄せ方を一冊で学べますので、内容自体は文句なしの出来となっています。居飛車急戦党の方は渡辺竜王の初著書となる「四間飛車破り 急戦編」と合わせて読むと完璧だと思います。

オンラインでは手に入りにくくなっているようですが、大型書店に行けばだいたい見つかります。気になる方は一度本屋さんで手にとって、中身を確認してみてください。

なお、「NHK将棋講座」の単行本化では「渡辺明の居飛車対振り飛車 Vol.1」、「渡辺明の居飛車対振り飛車 Vol.2」、「三浦流右四間の極意」、「鈴木大介の振り飛車自由自在」、「久保利明のさばきの極意」の5冊が本書と同様に、居飛車VS振り飛車をテーマにしています。