裏定跡の決め手

アマ有段者の将棋を参考にしています
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評価:B
対象者:5級〜二段
発売日:2007年8月

本書は先に刊行された「手筋の裏ワザ」の続編にあたり、タブロイド専門紙「週間将棋」に連載されていた人気講座「筋を通せ!1〜9筋の抜け道的裏ワザ」を加筆修正したものです。

タイトルに「定跡」なる言葉が入っていますが、テーマとなっているのはアマチュア有段者の実戦を参考にした「格言」、「手筋」、「怪しいごまかし方(笑)」、「新戦法(振り飛車のミレニアム囲いなど)」です。この辺が紛らわしいのでネットで買おうとしている方は要注意かも。

前巻では1〜6筋の手筋が解説されてしていたので、続編の本書では7〜9筋の手筋に限定されています。これだけでは、ページが持たないのは必至(?)なので、第2章では「囲いの堅さの裏知識」として、5筋不突き型美濃囲いと通常の美濃囲いとの耐久力の違い、右玉での早逃げ、穴熊の深さを利用した攻め、玉頭位取りからの組み換え、中・終盤での米長玉などを紹介しています。

個人的には、この第2章の方が企画的に面白く、彼我の囲いの強さと弱さについて「新たな気づき」がありました。ただ、戦いの最中の米長玉って有効性は十分にわかるんだけど、タイミングが難しいですね。ネット将棋でもあまり見たことないですし…

一見すると普通の右四間飛車ですが…

第1章 8筋におけるナビより 8筋逆襲・右四間:図は▲1五歩まで
△8六歩▲同歩△同飛▲6六角△8二飛に▲8四歩として後手の飛車先交換をとがめにいきます。以下△6四銀▲7七銀△7三桂に▲8八飛と大転回し△8五歩に▲9七桂と8筋を逆襲するのが狙いです。

この局面図を見て、塚田八段が得意とされていた△6二飛(便宜上:4八飛)戦法での8筋逆襲を思い出しました。「塚田泰明の将棋 遊心」のページで紹介している手順なのですが、これと似ていませんか? あまりにも鮮やか過ぎる手順で雑誌「将棋世界」で河口六段が感嘆しておられた記憶があります。

この△6二飛戦法での飛車先逆襲は「羽生善治の戦いの絶対感覚」のP43〜48で詳しく解説されていますので、お持ちの方はご確認ください。

詰めろが掛かったこの局面でどう受けますか?

第2章 囲いの堅さの裏知識より 美濃崩しへの対処:図は△5九飛まで
角(馬)筋に歩(香)を打って▲3九金としてから、一段目に飛車を下ろすのは、金子タカシ「美濃崩し180」をはじめ、あらゆる囲い崩しの本で必ず紹介される有名な美濃崩しの手筋です。狙いはもちろん、△3九飛成▲同玉△4九歩成(両王手)▲2八玉△3九角成以下の即詰みです。

上図では▲5八金が必殺の受けで、△同飛や同馬は詰めろが消えるので、▲3二金で先手勝ちとなります。先ほどの詰み手順は△4九歩成を▲同玉と取られて先手玉は詰みません。持ち駒に桂馬があれば▲4九桂でも簡単に受かります。本書ではこれらの手を含めて3つの局面をピックアップしています。

1テーマにつき4ページ用意されているので、狙い筋だけではなく具体的な変化手順までがキチンと解説されている点は評価できます。

掲載されている局面図は、全てアマチュア有段者の実戦を元にしているので、含みのある手や相手の手を殺す渋い一手はほとんどありませんが、その分、幅広い棋力の方が参考になるわかりやすい筋が掲載されています。

特に第2章では泥臭くも実践的な手が中心となっていますので、上手く読みこなせれば、「もやしっ子」な将棋にも骨太感が出そうです。

大会などの前に、前巻や以前レビューした「金言玉言新角言」などと併せて読んでおくと、いいことがあるかもしれません。