島朗:新手年鑑 Vol.1

「これが最前線だ」シリーズへのヒントとなった?
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評価:B
対象者:8級〜四段
発売日:1995年8月

1994年にプロの公式戦で現れた新手・流行型を理論家で知られる島八段が解説するガイドブックです。定跡書を教科書に見立てるなら、本書は補助的な資料集といったところでしょうか?

早稲田大学在学中の北浜七段が「羽生の頭脳」を読み、掲載手順に「穴」を発見して公式戦で披露したことから有名になった相横歩取りの「北浜新手」や、中原流相掛かり▲5九金型に対する米長九段の対策などが紹介されています。

数年後に深浦八段が著して人気シリーズとなる「これが最前線だ!−最新定跡完全ガイド」のアイデアも本書からきているのではないか、と思われます。

全222ページの5章構成で、見開きに盤面図が4枚配置されています。テーマと成っている戦型は以下の通りです。

序章 1994年度の流行
矢倉▲3七銀 / 対四間飛車棒銀の復活 / 相横歩取り北浜新手

第1章 振飛車
四間飛車vs棒銀 / 居飛穴への急戦 / 四間飛車vs銀冠穴熊 / 居飛穴vs浮き飛車 / 鷺宮定跡 / 四間vs右四間穴熊 / 立石流 / 左美濃vs藤井システム / 4五歩早仕掛け / 5筋位取り

第2章 矢倉
▲4六銀 / 角対抗型 / ▲3七銀〜▲3五歩 / ▲3七銀〜▲6八角

第3章 横歩取り
中原流 / 相横歩取り / 内藤流

第4章 相掛かり
横歩狙い / 腰掛銀△3三角(銀冠狙い) / ▲3七銀 / 腰掛銀△4四歩 / 中原流▲5六飛 / 中原囲い

第5章 その他の戦法
ヒネリ飛車 / 角換わり腰掛銀

対振り飛車の▲4五歩早仕掛けより

第1章 振飛車より ▲米長△藤井:図は△4一飛まで
▲4五歩早仕掛け戦法の定跡で▲2四歩に△同角とした変化図です。後手が△4一飛打の返し技を放ったところですが、これで居飛車が面白くないと言うのが当時の定説でした。▲3三桂馬としても△5一飛で、後続手がないからです。

しかし、ここで米長九段は▲3三桂に代えて、▲1一馬△同飛▲4七香と角筋を生かした新手順を披露しました。これに対し△4三歩は▲7五桂△7四金(△5三金は▲4五桂)▲8三桂成△同玉に▲4五歩と歩で銀を取られてしまいます(先手の角が遠く1一の飛車を睨んでいるので銀は移動できない)。

そこで、後手は△7一角としましたが、今度は▲9五歩と、角打ちで玉の退路が無くなった後手玉に端攻めをするのが好着想で米長九段の快勝譜となりました。

解説中には『いつ、誰が、どの棋戦』でその手を指したのかが記され、また従来はどういう手が常識とされていたかなども簡潔に触れられています。

発売から10年経った現在でも、立石流の指し方や右四間穴熊対策のページは役に立ちそうですし、また読み物として十分に楽しめる内容となっています。

ただし、盤面図の下にある解説が次のページにまたがっていることが多々あり、文中の『〜図では』とページの上を見るとその図ではなく、前のページで紹介された盤面図のことを指していたりと、構成にやや難があります。

テーマとなる局面図までの初手からの手順が、そのページではなくて、章の終わりにまとめて掲載されている点も気になりました。

それと表紙があまりにも素っ気ない感じですね。いかにも無機質な辞典っぽく、これじゃ書店で見ても手にとらないと思います。

なお、シリーズ次巻となる「新手年鑑 Vol.2」は著者が勝又六段にバトンタッチされています。