村山慈明:最新戦法必勝ガイド これが若手プロの常識だ

NHK杯などのプロ棋戦鑑賞のお供にどうぞ
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評価:B
対象者:5級〜四段
発売日:2006年11月

佐藤天彦四段、戸辺誠四段とともに「毒舌三羽ガラス」と称される若手のエース・村山慈明五段による最新定跡の手引書で、プロの公式戦のほか、ご自身の研究会で実際に試された手順を交えて解説しています。

ご存知の方も多いと思いますが、村山五段は研究家としても知られ、雑誌「近代将棋」に連載されていた「定跡最前線特捜部」はプロ棋士も参考にするほどで、その局面タイトル戦にも現れました。対局者の森内名人(だったと記憶しています)が、その局面を検討している控え室に入ってきたとき、慌てて盤面図を崩す記者やプロ棋士に「村山君の講座は読んできてますから大丈夫(その盤面図の内容は知っていますよ、の意)です。」というエピソードがあるほどです。

全222ページ、各章の頭にテーマ図があり、見開きにその解説のための盤面図が4枚という構成になっています。目次は以下の通りです。

第一章 定跡研究振り飛車編
先手藤井システム対急戦・居飛穴、後手藤井システム対急戦、ゴキゲン中飛車対丸山ワクチン・4七銀型、早石田鈴木新手▲7四歩、石田流対6三銀型

第二章 定跡研究居飛車編
一手損角換わり対早繰り銀・棒銀・腰掛け銀、角換わり腰掛け銀先後同型、8五飛戦法対新山崎流、相横歩取り

第三章 実戦編
「羽生四冠との初対局」対羽生善治四冠戦
「8五飛戦法の最新形」 対谷川浩司九段戦
「深夜の熱戦」    対横山泰明四段戦
「ヒントになった一局」対泉正樹七段戦

佐藤康光棋聖が指した驚きの一手△3三桂

第二章 定跡研究居飛車編より:図は△6四歩まで
▲6四同角は△2八歩▲同銀△2四飛がある。そこで▲2八飛が先手を取りながら、この狙いを消す定跡の一手ですが、ここで佐藤康光棋聖が指した△3三桂が驚きの新手。▲2一飛成△2八歩▲同竜△7三桂と双方の桂馬を活用する狙い。

タイトル、テーマとなる戦形ともに同時期に刊行された深浦王位の「最前線物語2」と似ていますが、構成は1年前に出版された所司七段の「将棋定跡最先端」とほぼ同じになっています。

ただ、深浦王位の著書に比べると本書のほうが戦形を絞った感じがあり、その分一つの定跡に対して比較的余裕を持って解説がなされています。僕は本書の解説で、対後手番ゴキゲン中飛車の序盤で早々と▲9六歩と突く理由を初めて知りました。

それとテーマ図に至るまでの初手からの手順が掲載されているのも「最前線物語2」にはない特徴で、我々アマチュアには助かります。逆に、どのプロ棋士による対局がきっかけで、どういう経緯を経て最新定跡が誕生したのかは、触れられていません。

純粋に今が旬の最新定跡を学びたいのなら本書または「将棋定跡最先端」を、新定跡誕生とその進化を時系列に追って、ドラマのように楽しみたい方には「最前線」シリーズがよいと思います。

出版から1年弱しか経っていないので、テーマとなっている戦形は現在でも「おいしく召し上がれる賞味期限」内ですが、既に絶版になっているようです。なお、本書の続編となる「アマの知らない最新定跡」が、2008年末に刊行されています。