所司和晴:決定版 駒落ち定跡

巻頭の推薦文は羽生名人
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評価:A
対象者:10級〜
発売日:2010年9月

「定跡伝道師」の異名を取り、「東大将棋ブックス」シリーズをはじめとする数々の硬派な定跡書を執筆してきた所司七段。本書はそんな所司七段が専門誌「将棋世界」で連載していた"駒落ち研究室"に新研究を加えて、単行本化したものです。

僕が将棋を覚えた当時は、近くに道場もなく、勉強は「NHK将棋講座」や「将棋世界」などの書籍中心で、実戦は同棋力のクラスメイトと指す程度でした。倶楽部24などのネット対局場は無論のこと、インターネットすら存在していない頃ですね。

レベルがずっと上の人と将棋を指す機会はほとんどなかったので、駒落ち定跡の存在は知っていたものの、勉強は全くしませんでした。「仮に勉強しても、最終的には(駒落ちレベルを通過して)指さなくなるから」などと、今振り返ると恥ずかしい勘違いもしていました。

そんな感じで駒落ちをある程度、勉強するようになったのは、「北九州ハイビジョン 将棋フェスティバル」をはじめとする将棋イベントでプロの先生方に、あるいはネット将棋で高段者の指導を受ける機会がポツポツと増えてきたこの10年くらいです。

遅まきながら駒落ち定跡を勉強して気づくのは、飛・角・銀・桂による攻め駒の連携、小駒(特に歩)の重要性、大駒の切る判断、玉を囲う意味など、上達に必要なエッセンスがギッシリと詰まっているということです。後悔とまではいきませんが、もうちょっと早い段階で取り組んでいれば、棋力も少し違っていたかな…とは思います。

本書では、上手の配置駒が玉・金×2・歩だけの八枚落ちを始め、ニ枚落ち、飛車落ち、角落ち、香落ちなどの定跡を、下手がしっかりと勝ちきる終盤まで詳しく解説しています。

全479ページの8章構成というズッシリとした内容(価格もボリューム感満点)で、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 八枚落ち(下手棒銀戦法)
第2章 六枚落ち(下手9筋攻め・1筋攻め)
第3章 四枚落ち(下手棒銀戦法・9筋攻め)
第4章 二枚落ち(二歩突き切り・銀多伝)
第5章 飛車香落ち(下手腰掛け銀)
第6章 飛車落ち(下手右試験飛車・居飛車引き角)
第7章 角落ち(下手矢倉・三間飛車)
第8章 香落ち(上手三間飛車)

第4章 二枚落ち:図は▲3四歩まで
4筋の位を取って、角の睨みで上手の金銀を2・3筋に固定させるのは「二枚落ち」の基本です。図から△3四同歩以下、▲同銀△3三歩▲同銀成と突っ込み、△同桂▲3四歩△4五桂▲同桂△4四銀に▲同角とバッサリと角を切って責めを継続すれば、先手勝勢となります。上図では▲3四歩に代えて、▲4四歩もあり本書はそちらもテーマに挙げています。

各章の冒頭で「○×のポイント」として、簡単な手合いの紹介、下手が勝つための道筋などを7〜8行にまとめてから、講座がスタート。一般的には指す機会が最も多いとされる二枚落ちには、約100ページと一番多くのページを充てています。

文章は「〜です」「〜ます」調の平易な文章で書かれていますが、文章中で触れられている変化手順の量は決して少なくありません。これは中途半端に検討を打ち切らずに、出来るだけ多くの研究内容を掲載しようという「所司七段らしさ」でしょう。

したがって、本書のタイトルにある「決定版」に相応しい充実した内容であることは間違いありませんが、冒頭の八枚落ちと六枚落ちのページ以外は、チビッ子が直接読むにはやや難しい内容だと思います。

どちらかというと、自分の子供に将棋を教える親御さん、将棋教室などで指導する立場にある方、プロ棋士に指導を受ける機会があるので、「見られても恥ずかしくないだけの体裁を整えたい(笑)」と思っている方向けではないでしょうか?

現在は駒別の手筋から大局観まで、あらゆる分野の棋書が充実しており、非常に効率的にレベルアップが計れますので、絶対に必要な本ではありませんが、完成度の高い一冊ですので、上記の条件に当てはまる方には役に立つでしょう。