阪口悟:ナニワ流ワンパク中飛車

狙いがわかりやすく攻め好きの人にはオススメな戦法
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評価:C
対象者:8級〜二段
発売日:2007年5月

ワンパクでもいい、たくましく育って欲しい。〜丸大ハム〜…って、いきなり10〜20代半ばの人には何のことかサッパリわからんフレーズを書いてしまいましたが、本書のタイトルとなっている「ワンパク中飛車」とは角道を止めずに中飛車にして、バンバン攻めていこうという積極的な振り飛車戦法です。

近藤六段が指すのは「ゴキゲン中飛車」、鈴木八段が「鈴木流豪快中飛車」、そして関西の阪口四段が指すのが「ワンパク中飛車」となりますが、基本となる形は同じです。

厳密に言うと、ワンパク中飛車では角筋を通したまま、▲7七角・6八銀と上がります。▲6八銀と上がってから居飛車が角交換にくれば、▲同銀でゴキゲン中飛車より一手得になりますし、銀が上がる前に交換にくれば、▲同桂の後に、5筋を交換して、▲5九飛・6七銀・7八金の形から▲8九飛と展開して、ツノ銀中飛車の狙い筋と同じように8筋を逆襲します。

近藤六段が指し始めた当初は、「角道開けたままの振り飛車なんて邪道」と一部では言われていたみたいですが、攻める振り飛車というコンセプトとその指しやすさから我々アマチュアだけでなく。プロ間でも流行しているトレンディー(化石語)な戦法です。

本書は「週間将棋」2006年6〜10月に連載された「さかちゃんのナニワ流ワンパク中飛車」を加筆修正したものになっています。全223ページで大まかに分けると、講座編・復習編・自戦記の構成となっています。目次は以下の通りです。

第1章 角交換型
第2章 対左美濃
第3章 対居飛車穴熊(△8五歩早突型・飛車先保留型)
第4章 相振り飛車(ワンパク中飛車vs向かい飛車・三間飛車)
第5章 居飛車の工夫(対急戦63銀型・角道不突・斜め棒銀・玉頭位取り)
第6章 講座ポイントチェック
第7章 実戦編(対村山慈明四段ほか、計4局の自戦記)
第8章 ワンパク中飛車熱闘譜

飛車先を受けないところがこの戦法の真骨頂

第1章 角交換型より:図は△8五歩まで
「振り飛車には角交換」という格言がありますが、▲6八銀(▲3八銀から馬を作らせても中飛車指せます)がこの戦法ならではの指し方です。以下、△7七角成▲同銀△4二銀▲3八銀△4四歩▲5五歩△同歩▲同飛△4三銀▲5九飛△4二金が代表的な手順です。この後、ワンパク中飛車側は▲6六銀〜7七桂〜7八金〜8九飛から8筋の逆襲を狙います。

本書の骨子となる初手▲5六歩に代えて、▲5八飛とすると△8四歩▲7六歩△8五歩▲7七角△3四歩とされたときに▲5五歩が指せません。▲6六歩と角道を止めると居飛車穴熊に囲われる可能性があるので、初手は▲5六歩がベターです。

対居飛車穴熊の章は鈴木八段の著書「鈴木流豪快中飛車」とほぼ同じで、▲5六銀から▲4六歩〜4五歩の仕掛けを念頭において駒組みを進めていく手順を解説しています。ただし、居飛車側が本気でイビアナを狙うならば本書で紹介されている△5三銀ではなくて△6三銀で組みにいったほうが手堅く、そこが抜け落ちているところが残念。

第5章では居飛車側の工夫も掲載されており、飛車先の△8五歩を保留して△6三銀〜7四銀と角頭を狙う(局面図は違いますが「島ノート」で森下流と紹介されていた形)筋や、角道を開けないことによって目標となる角を捌かせない(交換させない)形、玉頭位取り戦法とそれに対する振り飛車側の指し方と狙い筋が紹介されています。

全編を通して狙い筋がわかりやすく説明されており、6章のポイントチェックで復習も出来るので読みやすいのですが、居飛車持久戦の2・3章の頻出度が低く、有段者の方は急戦の部分しか参考にならないと思います。

角道を止めない中飛車をこれから指そうという級位者の方には参考になると思いますが、すでに近藤本や鈴木本をお持ちならば特に必要はないと思います。むしろ、そろそろ居飛車からみた対策本を誰かに書いてほしいです。

なお、△9九角成を△9一角成と書いたり、自戦記の棋譜で抜け落ちが合ったりと誤植が目立ちます。

追記:2008年10月にゴキゲン中飛車に関する新刊「鈴木大介の将棋 中飛車編」が出版されました。丸山ワクチンなど最新の手順を知りたい方は参考にしてみてください。