杉本昌隆:中飛車戦法―居飛車穴熊を撃退する!

後手番でのゴキゲン中飛車の解説もあります
この本の詳細をAmazonで見る

評価:B
対象者:8級〜初段
発売日:2002年9月

そろそろNHK将棋講座の講師をやるんじゃないかと、勝手に(笑)思い続けて数年の杉本七段による中飛車戦法の入門書です。

後半にはゴキゲン中飛車も登場しますが、メインテーマは対居飛車穴熊におけるツノ銀中飛車(▲6六歩と角道を止めて▲6七銀)の各種バリエーションです。

全222ページ、見開きに盤面図が4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 居飛車穴熊対策の中飛車
第2章 力戦中飛車(後手番のゴキゲン中飛車)

手順に飛車を下段に引くのがポイント

第1章 居飛車穴熊対策の中飛車より:図は▲6五歩まで
▲6五歩と振り飛車側から角交換を迫れるのが▲7八金の強み。以下△4四歩▲5五歩△同歩▲同飛△5四歩▲5九飛と、一歩手持ちにして手順に飛車を下段に引くのが好手順。ここから▲5六銀〜6六角〜7七桂〜8九飛車と展開し、▲8六歩△同歩▲8四歩と飛車先に蓋をして8筋から逆襲するのが狙いです。

第1章では上図のような形のほかにも、△1二香と居飛車穴熊の意思表示を確認してから▲8八飛と展開して、以下△1一玉▲7八金△2二銀に▲8六歩△同歩▲同飛と飛車交換を迫る手順も解説されています。飛車打ちの隙が多い居飛車側は△8五歩と交換を拒否しますが、一旦▲8八飛と引いておいて▲6六角〜7七桂〜8五飛と再度、飛車交換を狙いにいきます。

この形は頻出度が高いので、知らない方は覚えておきましょう。以前レビューした「森内俊之の戦いの絶対感覚」のページで掲載している盤面図(▲森内△大山)と変化手順もこの狙いの応用ですので、高段者の方も参考にしてみてください。

また、「中飛車道場(第4巻) 6四銀・ツノ銀」でも紹介されている、▲4六銀△4四銀の見合いの形から、▲6八飛と四間飛車に振りなおす「矢倉流中飛車」も解説されています。これら3つのバリエーションは、いずれも居飛車穴熊側が注意しないと手も足も出なくなる形ですので、中飛車党の方はチェックしておいて損はないと思います。

ほかには、5筋位取り中飛車での対玉頭位取り、相穴熊での戦い方も紹介されています。

第2章ではは後手番におけるゴキゲン中飛車を紹介。▲2四歩△同歩▲同飛の飛車先交換に△5六歩から一気に終盤戦に突入する超急戦策の最新定跡(2002年ですので、▲2三角の谷川新手や△5三香の鈴木新手など)も登場して、かなり本格的な内容です。

このあたりは級位者の方には難しいと思いますが、出版から5年経った現在では、有力手も変わっていますので、読まなくてもいいでしょう。ただし、飛車先交換に対して穏やかに△3二金と上がり、△5四飛の浮き飛車から△3五歩〜3四飛と回る筋などは、代表的なゴキゲン中飛車での戦い方なのでそちらの講は勉強になると思います。

創元社の本らしく、狙い筋の周辺だけが解説されていますので、これから中飛車を指したいと思っている8級〜くらいの方なら、すぐに理解できるでしょう。

ただし、タイトルに「居飛車穴熊を撃退」とあるが、後半のゴキゲン中飛車の章では居飛車穴熊は全く出てこないので注意。ゴキゲン〜は普通の中飛車とコンセプトが違うので、本書で無理に勉強しないで、違う機会に「ごきげん中飛車を指しこなす本」などを参考にすると良いでしょう。