鈴木大介の将棋 中飛車編

ゴキケン中飛車と相振り飛車を解説
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評価:B
対象者:8級〜四段
発売日:2008年10月

いつもニコニコ笑っている近藤正和六段が連採したことから「ゴキゲン中飛車」という可愛らしい(?)ネーミングが付いた同戦法も、登場から早10年が過ぎました。
角道を開けたままの振り飛車ということで、当初は「本筋ではない」、「一過性の戦法」と言われていましたが、羽生−谷川のタイトル戦登場以来、一気にメジャー戦法にまでの上り詰め、現在でもアマ・プロ問わずに高い人気を誇っています。

本書は近藤六段と並んで同戦法の大家である鈴木大介八段による最新の指南書です。鈴木八段は前著「鈴木流豪快中飛車の極意」のタイトルのように、ゴキゲン中飛車ではなく鈴木流〜というネーミングを使っています。これは生みの親は近藤六段だけど、定跡として体系化しのは自分だよ、という自負を込めての命名だそうです。しかし、出版社による前書きにはあっさりと「ゴキゲン中飛車」の文字が…(笑)

全222ページの2章構成で、盤面図は見開きに4枚配置されています。目次は以下の通りです。

第1章 先手中飛車
▲中飛車 vs 2手目△8四歩
▲中飛車 vs 2手目△3四歩
相振り飛車の戦い

第2章 後手中飛車
△中飛車 vs ▲2四歩型
△中飛車 vs ▲4八銀型
△中飛車 vs ▲4七銀型
△中飛車 vs ▲7八金型
△中飛車 vs ▲5八金右型
△中飛車 vs 丸山ワクチン

△3三銀を保留するのがポイント

第2章 △中飛車 vs 丸山ワクチン:図は▲7九玉まで
ゴキゲン対丸山ワクチンの頻出局面です。ここまでのポイントは、▲4七銀が用意されている状態で、△5五歩と突き越さないこと。歩交換が望めない状態で、△5五歩を突くと駒の進め方が難しくなってしまいます。

本書では、図の局面から△3三銀〜2二飛〜2四歩の速攻と△2四歩に代えて△4四銀という2つの失敗パターンを順に見ていき、「後回しにできる手は後回しにする」という近年の将棋に大きく影響を与えている考えに乗っ取り、△8四歩から銀冠を急ぐ本筋を解説していきます。

巻頭に『自分の理想をパターン化して覚えていただき、相手がどう来ようとも、その組み合わせで攻略していくのである。』とあるように、鈴木八段の棋書は定跡の解説というよりもその戦法の代表的な狙い筋や指し回しを紹介するという趣が強いのですが、本書は最新の定跡も比較的詳しく解説されています。

特に丸山ワクチンの章では、中飛車側の正しい銀冠の組み方の手順、左銀を先手の動きに合わせて攻め(△5五銀のぶつけ)と守り(△5三銀〜6四銀〜7三銀)に使う方法など、他の棋書には載っていない形にも多くのページが割かれています(但し、△7二金のいわゆる"遠山流"は省略)。

中盤をすっ飛ばして即、終盤に突入する「▲5八金右型」の急戦形も注目。この形はプロでも結論が出ておらず、鈴木八段も難解としています。しかし、もし△9四歩▲9六歩の交換がどこかで入っていたなら、玉の逃げ道が広い後手(中飛車)が有利という考えから、序盤のベストなタイミングで△9四歩を突く形を伝授しています。そこで▲9六歩を受けたら急戦へ持ち込んで良し、端を受けないなら△9五歩と突き越して位を主張するという巧妙な手順です。

また、近年の相振りブームの中、中飛車党としては対三間飛車における戦いも避けて通れませんが、本書では前著では全く触れられていなかったこの形も掲載されています。ただ、この相振り飛車の部分は後手(三間)の対策だけではなく、先手(中飛車)側の指し方もちょっとボリューム不足です。というのも、紹介されているのは、どれも▲7六歩と角道を開けている形であって、この一手を省略して▲6八銀〜5七銀と左銀を繰り出すという形が省略されているからです。

飛車と銀だけの単純な攻めですが、隙を見て▲9六歩〜9七角の活用や後手が中央だけを受けようとすると、▲5六歩の浮き飛車から違う筋を狙われたりと、対策を知らないとなかなかうるさい攻めですので、油断なりません。この辺りは杉本七段の「相振り革命3」で補ってあげる必要があるでしょう(2枚目の盤面図を参照)。

本書は、これまでに刊行されたゴキゲン中飛車に関する本を読んだことのない方には文句なしにオススメです。しかし、先手中飛車の章が鈴木八段の前著の焼き直しに近いところもあるので、既に「鈴木流豪快中飛車〜」をお持ちの方には前半部分が少し物足りないかもしれません。

勝又六段の名著「最新戦法の話」をお持ちの方は第五講「ゴキゲン中飛車の話」を併せて読むと、本書で足りないところを補えるでしょう。

なお、本シリーズの第2弾は「四間飛車編」となっており、振り飛車の天敵・松尾流居飛車穴熊も登場しますので、気になる方はそちらも参考にしてみてください。