屋敷伸之の囲いの崩し方

囲い崩しの基本が学べる良書です
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評価:C
対象者:8級〜二段
発売日:2006年9月

屋敷伸之九段(永世競艇王)が講師を務めた「NHK将棋講座(2005年10月〜2006年3月)」のテキストを加筆修正して書籍化したものです。

テーマは囲いの崩し方。テレビの将棋講座は内容によっては全く見ないという方も多いでしょうが、終盤における囲いの崩し方は初心者にとっては必修科目、有段者には復習ドリルといった具合に棋力に関係なく楽しめるものなので、本講座も視聴率は高かったと思われます。

簡単な問題から有段者レベルまで幅広く解説されており、また一つの問題につき複数の寄せのパターンが用意されていることもあり、なかなか楽しめました…が、この本を買うのはちょっと待ってほしいです(←営業妨害)。詳細はのちほど。

全222ページの6章構成、見開きに盤面図が4枚配置されています。また章末には詰め将棋が2問ずつ出題されています。目次は以下の通りです。

第1章 美濃囲い(片美濃、本美濃、高美濃、銀冠)
第2章 左美濃(△2二玉型左美濃、天守閣美濃、銀冠)
第3章 穴熊囲い(振り飛車穴熊、居飛車穴熊)
第4章 舟囲い(3一銀型舟囲い、左銀進出型舟囲い、ヨコ二枚金、タテ二枚金)
第5章 矢倉囲い(金矢倉、二枚金連結型矢倉、片矢倉
第6章 力戦形アラカルト(右玉囲い、中住居、串カツ囲い、トーチカほか)

無傷の銀冠も先手の持ち駒次第では一発KOです

第1章 美濃囲い(銀冠)より:テーマは『玉は端に追え』
桂馬を跳ねた形の銀冠は一段目がスースーして風通しがいいのですが、いきなり▲8一金と尻金で迫るのは△9三玉▲9一金に△5一歩と底歩で飛車の横利きをカットされて後続手がありません。ここでは▲9三銀といきなり放り込む手が正解となります。以下、△同玉(△同香は今度こそ▲8一金で詰む)▲9一飛成△9二銀打▲9五歩△同歩▲9四歩△同銀(▲同玉は▲9五香以下詰み)▲9五香△同銀▲9四歩△同玉▲9二龍△9三歩▲9六歩と、玉を端に追い詰めた後は、上下から追い込んで寄りとなります。

各囲いについて4ページ割り当てられており、1ページごとに『頭突き攻撃を狙え』『玉を端に追え(上図参照)』『7二の金を狙え』などのテーマが用意されています。つまり、同じ囲いでも玉へのアプローチ方法が4つの形で紹介されているわけです。

対象となる囲いの数が多いので4パターンもあれば十分だと思いますが、問題なのはその構成で、盤面図が基本図と途中図の2枚しか掲載されていないために、最終的にどんな形で寄りとなったのかがサッパリわかりません。

上の基本図を例に挙げますと、端に玉を追いやった後のの▲9五歩の場面で途中図が一枚入るだけです。本書の解説では、そこから寄り形とされるまでは直線で12手かかります。更に変化手順の解説も含めると、計23手分を盤面図なしで進めることになります。

問題レベルは初級から中級でも、その手順を盤面図なしでスラスラ読んで理解するにはその上の棋力(気力?)が必要となってしまいます。

逆に、応用例として用意されている屋敷九段の実戦例は、肝心の囲い崩しに入る15〜20手くらい前から盤面図が2枚も用意されているページもあり、「ここで盤面図いらないから、さっきの基本パターンで使ってほしい」と思うことが多々ありました。

問題の内容、レベル、解説も非常に良いのですが、構成の仕方でこうも変わるのかと。素材がいいだけに非常に残念な一冊です。

「囲い崩し」の本をお探しなら、ちょっと問題レベルが易しくなりますが、同じく「NHK将棋講座」のテキストを書籍化した「佐藤康光の寄せの急所囲いの急所」や、高橋九段の「将棋手筋の教科書 囲いの崩し方編」がオススメです。

なお、上図の問題は以前レビューした「将棋・ひと目の端攻め 攻防の手順がわかる200問」(監修:渡辺竜王)のページに掲載している2問目の問題図と同じ狙いですね。寄せの本には大体この形が載っています。問題図を見た瞬間に「ああこれね。先手の持ち駒が金と銀のやつでしょ」と、持ち駒までわかった方はかなりの実力だと思います。